第117回 なれるとか、なれないとか

こんなご時世ではありますが、6月の初めにいつもの健康診断に行ってきました。
体が資本のフリーランサーにとって、年に一度の健康診断は欠かせないものなのです。

午前8時半、健康診断専門の施設に到着。
9時受付開始のはずなのに、すでに多くの受診者が受付を済ませて、施設の中に移動しています。
9時受付といっても、少しでも早く受診したいというのが人情で、8時前から来ている人もたくさんいるのでしょう。
現に私も受付より30分早く来てます。でも、いつもこんな感じなのでした。。毎年、ここに来ているのに慣れません。。。

気を取り直して、私も受付を済ませて、ロッカールームに向かいます。
パンツ一枚になって、ラフな部屋着のような健診着に着替えるのですが、健診着のズボンの前後がよくわからない。
社会の窓(?)があればわかるのにと思いながら、迷いつつも流れに任せて履く。

受診室に移動すると、すでに沢山の人が同じ健診着を着て、ソファーに腰掛けている。
ソファーには密にならないように、大きな「X」印の紙が一人置きに貼られている。
確か昨年もそうだった。だから、「沢山の人」と書いたけれど、一昨年の半分程度の人しかいないのだ。(たぶん)
みんな自分の名前が呼ばれるまでおとなしく待っている。
健康診断に慣れているのだろう。
いや馴らされてしまったのかな、などとボンヤリ考えていたら、白衣の女性に名前を呼ばれた。
まずは、採血からスタートらしい。

採血の窓口に移動しながら、ここにいる「白衣の女性」は看護師さんなのだろうか、検査技師なのだろうかと考えてしまう。
そして、自然と「看護師」と考えている自分に驚く。(もう「看護婦さん」って言っちゃいけないんだ・・・)

採血の看護師さんは手際がいい。
「はい、左手を出してください」
例の小さな枕に左前腕を載せると、看護師さんはサッと上腕部にゴムを巻いて、
受診票に目をやると
「たこざんぎさんですね。生年月日は?」「えーと、昭和〇年〇月×日・・・」
「はい、親指を中にして手を握って・・・、チクッとしますよ」
(チクッ!)
「痺れはありませんか?手を開いて楽にして」とか言ってるうちに小さな試験管みたいなヤツに3本も採血を済ませてる。
いつのまに3本も。。。さっきまで私の中を流れていた血は試験管に移動して、看護師さんに軽く振られている。
注射針の跡に小さな絆創膏を貼られ、「お呼びするまで、先ほどの場所でお待ちください」と言われておとなしくソファーに向かう。

「たこざんぎさん、身長体重を測ります」
本人確認をすませると、スリッパを脱いで身長計に載るように促される。
おっ、そうだ、この身長計は体重計も兼ねているのだ。
少しでも体重を減らすべく息を吐き出し、腹を引っ込めて、こっそり背伸びして身長計に乗った。
乗ったと同時に頭の上に測定用バーが降りてきた。(ゴンっ。痛っ!ってことはなかった)
うまくいっただろうか?たぶん、ダメだったような気がする。
この一連の工作にはまだまだ訓練が必要なようだ。(何の訓練?)

続いて聴力測定。
公衆電話ボックス(最近見ないですね。死語かな?)のような個室に入って、左右の色が違う耳当てのヘッドホンをします。
そのヘッドホンから「音らしきもの」が聞こえてきたら、手許のボタンを押すのです。
「ッー」と聞こえるので反射的にボタンを押す。「ーミーミ」ボタンを押す。「ム-」ボタン。「ォ」ボタン!
けっこう早く反応できた、というか慣れました。(ボタンを押すと餌がもらえる動物実験みたいですが)

視力測定。
メガネを掛けたまま、箱のような測定器を覗き込むと、小さな「C」みたいなの(ランドルト環ですね)が、上下左右に向きを変えて出てきます。
その開いている向きを手許の十字キーで示すだけです。とにかく早く示します。早く、早く。もう見えなくてもいいんです。
楽勝です。(何に勝ったのか?とりあえずキー操作に慣れました)

血圧測定。
「たこざんぎさん、血圧を測りますので、採血していない腕を出してください」
今度は右手を小さな枕の上に置くと、看護師さんが幅広の帯を上腕部に巻き付けます。
で、スイッチオン!
自動的に巻かれた帯に「ウィーン」と空気?が充填され、腕が圧迫されます。
と、何故か途中で空気充填が止まり、不自然に空気が抜けていく・・・。
「あら?もう一回測りますね」という看護師さんの反応にちょっとビビる。
(やり直しか、なんだかドキドキする)
「ウィーン」と腕を圧迫する。
「あら?いつもこんな感じですか?」って、聞かれても。。。いつもの感じなんかわからないよ。慣れてないし・・・。

「では、腹囲を測りますね。上着をまくり上げて、お腹を出してください」(おっと、ここでメタボチェックか・・・腹を引っ込めて・・・)
すかさず「はい、力を抜いて」と看護師さん。
反射的にフッと力が抜けた瞬間、お腹にメジャーを巻き付けた・・・負けた。

その後も胸部レントゲン、心電図、眼底検査と続いて、腹部エコー検査。
腹部エコー検査は数年受診して、もう慣れている。
初めての時は、お腹にゼリーを塗られて棒のようなものを強く押し当てられて、息を吸ったり、止めたりで苦労したし、胆嚢のポリープと脂肪肝が見つかってビビったけれど、その後、毎年同じ結果なので、もう慣れている。
ところが今年は(というか昨年もか)、エコー検査終了後、お腹に温かいおしぼりのようなものを乗せられて、「コロナ対策のため、ゼリーは自分で拭いてください。そちらに紙ナプキンもありますので、ご自由にお使いください」とのこと。
そうか一昨年までは看護師さんがお腹を拭いてくれたのだった。なんか残念(?)。

そして、健康診断も終盤にさしかかってきました。
真打ちのバリウム検査です。
この検査はもう何十回(ホントか?)も受けていますが、慣れることはないです。
まず、直立した検査台に立って、胃を膨らませるための発泡剤を飲むところからスタートです。
「ゲップは我慢してくださいね」って、発泡してるんだから、無理でしょ!と心の中で文句を言いながら、我慢します。
「はい。左手でバリウムの入ったコップを持って、右手は検査台の右の取っ手を掴んでください」
「バリウムを半分飲んで-」(昔よりは飲みやすい味になったけど、薄いバナナ味の水溶き片栗粉を飲んでる感じ)
「はいー、いいですよー」(何がいいの?)
「じゃあ、残りも一気に飲んじゃいましょう(イッキ!イッキ!)」(一気飲みはダメでしょう?)
「はい、口の周りに付いたバリウムは左にあるティッシュを右手で取って、左から右に拭いて、左手のコップの中に捨ててください」
「さあ、台を後ろに倒しますので、両手でしっかりと台の取っ手を掴んでください」(うわー。。。いきなり倒すなよ!)
「真上を向いたら、ちょっとだけ体全体を左に向けて-」(左って、どっちだ!?)
「今度はお腹だけ右に向けてみましょう」(お腹だけってw)
「そのまま左からうつ伏せになって、内回りに3回、回ってください」(内回り?)
「あ、それは時計回りです。うつ伏せになったところから西から東に登る感じで」(えっ!)
「ちょっとだけ頭を下げますよ-」(うわ)
「もっと下げます」(あわわ。バリウムが・・・)
「もう、一気に下げますー。あー!大丈夫ですか?」(う・・・・・・・・・)
・・・・・・・・・
絶対、バリウム検査に慣れることはない。。
検査後も大変だし。(「お疲れ様、終わりましたよ」なんて、ピンクのコーラック2粒で言ってしまっていいの? って、誰かの短歌のようだし)
「このあと予定していた肺活量検査はコロナ禍のため、中止です。ごめんなさい。」
(いえいえ、お謝りにならなくても。。代わりにバリウム検査を中止にしてください)

最後に、どこか達観した総髪で白髪のドクターの問診を受けて健康診断はすべて終了です。

着替えを済ませて、退出手続きをすると、近くの百貨店のレストラン街のお食事券を手渡されました。
「いい子でちたねー、ご褒美でしゅー」って感じでしょうか。
もちろんコーラックを2粒飲んだばかりなので、レストラン街には行きませんよ。
行きませんよ、とは言いつつ、ビールの一杯も飲みたいところです(前夜から禁酒中)。
でも、ここは我慢して、慣れない百貨店の地下食品売り場(デカチパ、じゃないデパチカ)でご褒美を買って帰りましょう。

それにしても慣れることもあるし、慣れないこともあるのです。
マスクでのテレビ会議には慣れたけど、常時マスクには慣れません。
お店の入り口の手指消毒には慣れたけど、アクリル板越しの会話には慣れません。
〇〇宣言には慣れたけど、19時以降飲酒禁止には慣れません。。。。

※「慣れる」には、「物事に絶えず触れることによって、それが平常と感じられるようになること。習熟する。警戒心を抱かなくなる」なんて意味があるみたいです。(「慣れる」というより「馴らされた」感じですね)