第121回 きこう文「雪の細道」

北国に雪はつきものなのですが、今年の2月は近年にない大雪に見舞われて大変難儀いたしました。
予想を超える量の降雪は人々の生活を根底から覆すものなのです。

まず、家から出ることができません。
もし、玄関内に雪かき用スコップ※がなければ、予期せぬ籠城生活を強いられます。
(※正式名称はわかりません。木製の持ち手の先にプラスチック製の大きな四角いチリトリがついてるみたいなヤツ)

仮に雪かき用スコップがあったとしても、大雪の前に多勢に無勢、苦労した挙句にようやく一本ほそーい道をつけられる程度なのです。
そんな時は、こんな鄙(ひな・・・田舎ですね)に住んでいる自分の境遇を恨むのです。
もう少し懐(ふところ)に余裕があれば、雪の少ない都会に住めるのに。。。
で、なんの脈絡もなく一句

雪の朝 住み替えたいぞ 鄙(ひな)の家
(都会の絵の具に染まりたい・・・)

2月6日は、札幌を中心に大雪に見舞われました。
24時間の降雪量は60cmを超えました。
ジェダイ・マスターのヨーダ※が埋まる深さです。
(※身長66㎝。StarWarsの主要登場人物。元首相に似てる、というのは個人的な感想です)

すでに積もっている雪と合わせて深さは120㎝以上。
こんな雪の中で活動できるのはイエティとトーントーン※くらいでしょうか。
(※StarWarsの泡沫登場動物?)
家の周りはとにかく真っ白です。色の白さが隠すのは七難どころじゃありません。
家そのものが大きな雪像となり、ところどころにある小さな雪像はたぶん自動車や犬小屋でしょう。
期せずして、雪まつりの開催です。(前衛的な雪像ばかりですが。。)

と感慨にふけっている場合はでありませんでした。
翌7日は朝から出かける予定がありましたので、目の前の大雪像を倒すべく、雪かきに挑んだのでした。
小さな雪かきスコップで、玄関前の雪山に小さな一歩を踏み出しました。
まずは家の壁に立てかけてあったはずの「ママさんダンプ」※を掘り出さなければいけません。
(※正式名称はスノーダンプ? 人が乗られるような大きなプラスチック製の雪かきに鉄製の持ち手がついてます。と書いてみたもののうまく説明ができないので、興味のある方はネットでお調べいただければと)

30分ほど、雪の中を右往左往した挙句、ようやく「ママさんダンプ」を発見しました。
でも、発見の喜びもつかの間、日頃運動不足の中年に、雪は凶器となって襲い掛かるのでした。
すなわち、雪かきの序盤で腰をやってしまいました。。。
さらに履きなれない長靴で足の裏の「うおの目」っぽいものまで激痛を発し、涙するのでした。
で、またまた、なんの脈絡もなく一句

雪かきや 腰くだき うおの目に涙
(鳥の啼く声も聞こえていたかもしれません)

鳥といっしょに泣きながら、どうにかこうにか市道まで細ーい道をつけて、家に戻りました。
入浴剤入りのお風呂と熱燗で体のケアをして休みました。

ところが翌朝、玄関のドアを開けてみると、また一面真っ白です。
夜中に風が吹いたのでしょうか。雪も降ったのでしょうか。
昨日、身を削ってつけた細道が跡形もありません。
あれは夢だったのでしょうか。。。(「でしょうか」ばっかり)

風雪や つわものどもの 夢のあと
(「兵」でも「強者」でもないですけど、句の都合上、ご勘弁を)

田舎とはいえ、ご近所には裕福な家庭もたくさんあります。
(貧しいのはうちだけかもしれません。「格差社会」という言葉と寒さが身に沁みます)
ロードヒーティングの設備のある家庭もあります。
どんなに雪が降っても、一晩中ロードヒーティングを稼働させて、雪を寄せ付けないのです。
お金を湯水のように使って、雪を湯水に変えているのでしょう。

豪雪の 降り残してや ロードヒーティング(字余り)
(鑑賞:その裕福な家だけ玄関前のアスファルトが見えてます。まるで、雪がその家だけ降るのを避けたようです)

雪を融かす手段としては、ロードヒーティングのほかに融雪槽という設備があります。
融雪槽は、文字通り雪を融かすための深い穴(1.5m~3mくらい)です。
穴の中に雪を落とし入れて、電気もしくはガスによる熱で雪を融かします。
熱湯を雪に浴びせて、融かすものもあります。
いずれにしても、家の前にマンホールのような蓋付の穴(丸だったり、四角だったりします)があれば、それは融雪槽で、裕福な証しです。(もちろん我が家にはありません)

静かな雪の朝、どこかで融雪槽が稼働している音※を聞くと、つい一句詠んでしまいます。
(※雪を融かす熱を発するための動力は意外と大きな音を響かせます)

しずけさや 雪がしみいる 融雪槽

そして、意外なことですが、融雪槽に雪を集めるのも重労働ではあります。

大雪を 集めて辛(つら)し 融雪槽

結局、雪国における裕福ランクは、ロードヒーティング → 融雪槽 → ママさんダンプ → 雪かき用スコップとなるのでしょうか。
と書いたところで、「雪かきを業者さんに頼む人」と「自分で除雪機を持っている人」を忘れてたことに気づきました。

業者さんに頼む人の裕福度合はわかりませんが、「金で解決」するわけですから余裕のある人に違いありません。
でも、今回の大雪では、業者さんでさえも雪に阻まれて移動ができなかったり、機動力が落ちて、実働が数分の一に落ちたりと雪かき契約の履行が満足にいっていないようです。

自分で除雪機を持っている人は余裕があって、かつマニアな人でしょう(勝手な想像です)。
耕運機のような手押しタイプのものやブルドーザのような乗用タイプの機械を駆使して除雪をしている姿が、端から見ても誇らしげで嬉々として作業をしているように見えます(勝手な想像です)。
力強く雪を押しのける姿をみると、せめてほんの少しでいいから、うちの前の雪も除けてよ、って思うのは私だけではないでしょう。
とは言え、世の中にはいろんな人がいて、「雪が止んでから除雪するなんて、待ってられねぇ」とばかり、大荒れの天気の中、ママさんダンプで雪よけをする人がいます。
吹雪の中では、除けても除けても雪は次々積もっていきます。
ヘトヘトに自分を痛めつけながら除雪をしている姿を見ると、手にしてるママさんダンプをMさんダンプと呼んでしまいそうです(個人の感想です)。
やがて疲れ切ったその人は雪道に倒れてしまうのでした。

荒天や 歩道に横たう 天邪鬼

雪かきの手が及ばないところに青空駐車の自動車が潜んでいたりします。
完全に積雪に包まれて小さな雪像と化しているのですが、住宅の隣に停めてあったりすると、家の屋根から大きな雪庇(せっぴ=雪のひさし)がせり出していて、掘り出すには危険が伴うし、ましてや自動車がFR(後輪駆動)車だったら、雪から抜け出すのは絶望的といえましょう。

むざんやな 雪庇の下の FR車
(やはり冬の北海道は4WD車かFF車ですね。スタッドレスタイヤも必須です)

そんなこんなで、2月7日は大雪のせいで出かけることはできませんでした。
仮にJRの最寄り駅に辿り着けたとしても、終日札幌発着の電車は運休だったので、移動は無理でした。
大雪の影響で線路に立ち往生した電車が大量発生したみたいです。

昔々、JR北海道は俳優の辰巳琢郎さんを起用して「冬こそJR」というテレビCMを放映してました。
冬でも運休することなく正確なダイヤで運行するJRに乗って、犯人がアリバイ工作をしてたみたいなCMだったような(違うような)。
とにかく今年の大雪は異常ですね。
ラ・ニーニャか、ラ・クカラーチャかなんだかわからないけれど、地球規模の何かなんでしょうか。
早く雪が融けてほしいです。春になってほしいです。

雪雲の ふたみにわかれ くる春ぞ

※「紀行」文を書こうとしましたが、雪のせいで何処にも出かけられず。結局、天気絡みの「気候」文になってしまいました。

謝辞:松尾芭蕉様、あなたにインスパイアされてオマージュという名のパクリで剽窃してしまいました。(なんのこっちゃ)

参考俳句一覧
草の戸も 住替(すみか)はる代ぞ 雛(ひな)の家
行く春や 鳥啼(なき) 魚の目は泪
夏草や 兵(つはもの)どもが 夢の跡
五月雨(さみだれ)の 降り残してや 光堂
閑(しづ)かさや 岩にしみ入る 蝉の声
五月雨を 集めて早し 最上川
荒海や 佐渡に横たふ 天河
むざんやな 甲(かぶと)の下の きりぎりす
蛤(はまぐり)の ふたみに別れ 行く秋ぞ