第127回 書斎発掘の記

2月初めのある日のこと。
ずっと自堕落なインドア生活を送ってきたが、世間の風向きが変わってきたのを感じだした。
三年ぶりに大通公園でリアルな「さっぽろ雪まつり」も開催されたのだ。
そこで一念発起した。
よし、書斎を片づけよう!(「書斎」なんて立派なものじゃないけど)
とにかく10平米程度の書斎はゴミ屋敷手前で大変なことになっている。
入口から5歩進んで、左に身体を捩って4歩ほど進んで、さらに左に進みたいのだが、行く手を本やら雑誌やら、段ボール箱やら手提げ袋に阻まれるのだ。
いつもは強引に進んで、机と思しき雑然とした小山の前にある椅子に腰をはめ込んで、肉眼では確認できない奥深いところに鎮座しているはずの古いPCの電源を探るのだが、その日はその行程は辿らない。

まず、今、立っているその場の開墾(?)からだ。
北海道の地を切り開いた先人の血が騒ぐ(といっても、私の家系は屯田兵とは一切関係はない。内地で食い詰めて北に逃げてきた人の末裔だ、たぶん)。

足元のヨドバシカメラの紙袋を取り上げる。中に何か入っている。
覗いてみると、どうやら何かのケーブルだ。
2メートルのHDMIケーブル。
必要があって買ったのだろうけど、HDMIケーブルはどこかの抽斗に売るほどあったような気がする。

紙袋の下には雑誌や本が小山を築いている。
雑誌を手に取る。
「BRUTUS 2021年10月15日号」村上春樹の特集号だ。
上巻とあるので、どこかに下巻もあるはずだ。
でも、村上春樹の雑誌の下にあったのは、色川武大の「ぼうふら漂遊記」だった。

そうだ、思い出した。
この本を買った時期は、海外旅行はもう無理かもなぁって、思っていた頃だ。
代償行為として、なんでもいいから旅の本を読みたいと思っていた。
でも、普通の紀行文や旅行記じゃなくて、「漂流記」を切望していた(ココロは大海を彷徨っていたのか)。

「ロビンソン・クルーソー漂流記」とか「十五少年漂流記」のような物語、「コン・ティキ号漂流記」とか「ジョン万次郎漂流記」のようなノンフィクション・・・。
まだ、ほかに何かないかとAmazonのサイトを探していたときに「ぼうふら漂遊記」と遭遇した。

「漂流記(hyouryuuki)」としたつもりが、Rを打ち忘れて「漂遊記(hyouyuuki)」で検索しちゃったのか。。。
主人公が、離婚を機に世界各地にギャンブルをしに行く本なのだ(自由に海外に行くという部分だけがうらやましい・・・)。

「ぼうふら漂遊記」の下から「ウルトラQ」の薄いMOOK本が出てきた
ウルトラ特撮PerfectMookのvol.6だ。
2020年9月26日第1刷という奥付がある。
さらにvol.7「怪奇大作戦」も。
いずれも、「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」ほどメジャーではないが、知る人ぞ知るマニア向け特撮作品だ。
旅行に憧れる前には、懐古趣味に走っていたのか。

MOOK本の横にあった紙袋を覗くと二つ箱が入っていた。
ディアゴスティー二社の「StarWars スターシップ&ビークルコレクション」とアシェット・コレクションズ社の「ENJOY!OUTDOOR」だ。
いずれも2022年5月の創刊号で、StarWarsは「ミレニアム・ファルコン号」のダイキャストモデルが付録(?)で、OUTDOORの方は組み立て式「薪ストーブ」が入っていた。

この頃は、遠い宇宙に儚い憧れを抱いたり、気兼ねなくマスクを外せるアウトドアを夢想していたのだろう(って、創刊号だけ破格の安値なので、買っただけかもしれない。。。つい最近も「BLUE NOTE JAZZコレクション」の創刊号を買ったっけ・・・)。

紙袋の下には30cm四方の小さな箱があった。
開けてみると、穴の開いた四角い木箱に鉄の細長い金属棒が15本くらい並んでいる見慣れないものが出てきた。
楽器のようだが、いつ買ったのか覚えがない・・・。

その箱の下に「はじめてのカリンバ」という本があった。
そういえば、在宅時間が長くなって楽器ブームが起きた、という過去のニュースの記憶がよみがえってきた。
もしかして、楽器とは無縁の人生を送ってきた自分にも演奏できる楽器があるのではないか?
そんな無謀な夢想の果てに手のひらのピアノと呼ばれるカリンバを手に入れたような気がする。
(しかし、箱を開けてもいないということは、ポチってから置き配されるまでのわずかな間に熱が冷めてしまったのだろう・・・カリンバに罪はないのだ)

その下からは「魔法戦士」のステッキ型の玩具「マジョカアイリス」が出てきた。
3歳以上の女児対象の玩具である。
もはやこれを何のために購入したのかも記憶にない。
外呑みができないストレスから魔法で世界の秩序を変えようと本気で考えたのか、あるいはZoom呑みで酒をやり過ぎて記憶のないまま魔法の力に誘導されたのか・・・。

魔法のステッキの下からは一角獣の頭骨のレプリカが発掘された。
村上春樹の小説の影響なのか、緊急事態宣言中に読んだ紀行文「パタゴニア」の影響なのか、はたまたユニコーン企業を発掘しようとして、ユニコーンを発掘してしまったのか・・・。
とりとめのないことを考えていたら、その下からちょっと大きめの段ボール箱を発見した。
箱の横には「ScanSnap」という商品名が書いてある。
こいつは高速で書類をスキャンできる素敵なマシンだ。
本の自炊(自分の持っている本をスキャニングして電子書籍化)もできちゃう優れモノだ。

そうか!
あの在宅を強いられた最初の時期に、本や雑誌で散らかったこの書斎(?)を「紙の電子化」によって整理整頓するために、最初に購入したのはこのマシンだったのだ・・・。
ようやく今、神マシンは無事に発掘されたのだ。。
「ScanSnap」よ!さあ、目覚めて、活躍するのだ!(って、2021年5月に買って、今ようやく起動?)

そんなこんなで、まだまだ書斎の発掘作業に終わりは見えない。
でも、今、私の頭の中には小林旭の「自動車ショー歌」が渦巻いている。

♪ここらで止めても、いいコロナ~♪(なんのこっちゃ)