第137回 風邪引きのジレンマ

11月になったとたん風邪をひいた。
実は、10月下旬からなんとなく怪しい気配はあった。
直接の引き金は10月末に受けたインフルエンザ予防接種だったかもしれないけど、原因はよくわからない。

坂口安吾の小説「風博士」は、風博士が突然消えて風となるまでの顛末を描いた掌編で、風博士が消えた瞬間に宿敵・蛸(タコ)博士が風邪を引くという落ちなのだが(ネタバレ)、私も誰かの恨みを買っていたのかな。

37度程度と微熱だが、喉がひどく痛い。
咳をしてもひとり。
市販薬も効いているのか、いないのか。
テレビCMでは、服用したタレントがすぐに元気になるけど、あれは演技なのか、スポンサーへの忖度なのか。
伝説の玉子酒に頼ろうにも、玉子がない。仕方がないから玉子抜きの玉子酒を呑んでみる。
「志ん生の火焔太鼓や玉子酒」
以前、歳時記で見つけた俳句だ。
俳句の状況はよくわからないけど、きっと作者は風邪に伏せりながら落語を聞いてるのだろう(酒も呑んでいるのだろう)。

考えがあちこちに飛んでしまって、とても何かを書ける気がしない。このコラムの締め切りも間近なのに。。。
風邪でコラムの締め切りを守れない人を第三者目線で記述しようかと思ったが、幽体離脱をする気力も起こらない(そもそも意図して幽体離脱できるのは、ザ・たっち だけだ)。

そんなこんなで、ぼんやりカレンダーを見ていたら、十一月がプラスとマイナスに見えてきた。
その昔、ガラスのコップを使う奇術師が、落として割って「グラスマイナスゼロ」と言ってた(うーんしょうもないダジャレ。熱のせいだ)。

「プラス」は前向きで元気の出る言葉だ。しかし、今の気分は「マイナス」だ。
なぜなら、風邪を引いてるから(やっぱり熱のせいだ)。

なぜ、風邪を「引く」というのだろう。
古代中国では、風が「邪気」を運んできて、体の中に引き込むことで風邪になると考えられていたらしい(インターネットより)。
日本でも平安時代には「風邪を引く」と言っていたようなので、その頃には中国から風邪は伝来していたと思われる。
たぶん遣唐使が運んできたにちがいない(という見当違い。喉だけでなく頭も痛くなってきた)。

江戸時代には「目病み女に風邪引き男」などといって、目の潤んだ女性と風邪で鼻声の男が色気があってカッコイイ対象とされていた。
色気が邪気に勝るという倒錯した儚い美意識ではあるが、現代の風邪引き男には当て嵌まらない(ついに布団の中でトローチを舐めている)。

邪気は邪神からと言われるが、日本における邪神の代表はゴジラであろう。
ハリウッドに進出して久しいゴジラではあるが、やはり日本怪獣の勇である。
「シンゴジラ」が真打ちかと思いきや「ゴジラ-1.0」が最新だ。
「ゴジラ-1.0」は「ゴジラマイナスワン」。
ゴジラもマイナスということは風邪を引くのだろう。
(この雑な展開は熱のせいもあるが、布団の中からAmazon Primeビデオの「ゴジラ-1.0」を見始めたのだ)

日本のゴジラ映画は電車との親和性が高い(日本語の使い方がヘン)。
たいていのゴジラは線路に赴いて、電車を囓ったり、持ち上げたり、投げつけたりする(時には電車に攻撃されたりもするけれど)。
「ゴジラ-1.0」では、ゴジラが持ち上げた電車の中にヒロインの浜辺美波がひとり残される。絶体絶命だ。
その昔「キングコング対ゴジラ」では、キングコングが襲った電車の中にヒロインの浜美枝がいた。そして、このあと浜美枝はキングコングに捕まって国会議事堂へ。絶対絶命だ。
私も咳が止まらない。絶対絶命だ。
そして、妄想も止まらない。
ゴジラ映画の「法則」を発見したのだ。
法則:ゴジラ映画で、電車に残されるヒロインの名前には必ず「浜」と「美」が含まれている!!
(もう映画を観るのは止めて、寝た方がよさそうだ)

風邪とゴジラは邪気から無理矢理の連想だが、風邪と電車はどう関係があるのか?(って、誰も気にしていない疑問だが)
答え:風邪も電車の線路も「引く」ものなのだ。
いや、ちがう。線路は「敷く」ものだ。
いやいや、「敷く」のは鉄道だ。
いやいやいや、偉い議員さんが利益誘導で鉄道を引いてくるのだ。
いやいやいやいや、駅や線路ができると地価が上がるから、その前に地上げでしょう。「地面師たち」でしょう(Netflix会員じゃないので観たことないけど)。
いやいやいやいやいや・・・もうええでしょう。

もうええ加減にして休みます(「加減」が「プラス」と「マイナス」だなんて野暮なことを言わずに寝ます)。

風邪には特効薬はないので、栄養をとって安静にするのが一番!

皆様もこれから忙しい年末に向けて風邪に気をつけてくださいね(って、誰に言っているのやら)