第21回 パン屋さんのお菓子

10月は雨ばかりでした。

日本には晴耕雨読という素敵な言葉があります。フランスにも雨にまつわることわざや格言がいくつかありますが、日本よりネガティブな意味のものが多い気がします。

フランス人は傘が大嫌い!折り畳み傘を携帯している人はいないし、雨の日も傘なしでウィンドブレーカーみたいなもので歩いている人が多いです。傘業界が心配な程。日本では小雨でも台風でも皆が傘をさしていて、コンビニで安く売られているのと、傘の忘れ物の多さに驚きます。

雨の日はおとなしく読書とかしていればいいものを、のんびりが苦手な私は屋内でもできる仕事をついつい探してしまいます。

ちょうど知り合いからクッキーの大量注文が入ったので、雨の日はアトリエにこもって、ひたすらクッキーを焼き続けました。私は元々パン職人なので、お菓子作りはあまり得意ではありません。そんな私の数少ないお菓子のスペシャリティがチュイールです。

チュイールとはフランス語で瓦という意味です。レシピは数多く存在しますが、基本は粉がとても少ない配合でカリカリして薄い焼き上がりが特徴です。

日本のクッキーに比べるとしっかり甘くて焼き色も濃い目ですが、これは私のこだわりで、日本人向けにはアレンジしていません。昔からあるレシピを甘さ控え目に砂糖を減らしたり、ソフトに焼くのはけしからん!と私は思ってしまいます。

パン屋では、カスタードクリームを炊く時に大量の卵白が余るので、卵白を沢山使うチュイールやメレンゲをよく売っています。お菓子専門店で売られている、おしゃれなクッキーというより、自宅用のおやつとして気軽に買う感じです。

最近はカスタードクリームを手作りする店が減ったことや、チュイールはとても手間がかかるので、フランスでも作っているお店は少なくなってしまいました。

チュイールの難しさは「焼き」なんです。

通常、クッキーは生地を天板に並べて、焼けたら天板ごとオーブンから取り出して終了です。しかしチュイールは薄いので先に外側から色がついてくるので2度焼きが必要だし、絶妙な焼き色にこだわると1枚づつオーブンから出さなくてはならず、とにかく焼きに手間がかかります。

この「焼く」という作業は、一見簡単にみえます。日本のパン屋では新人がオーブンを任されて、ベテランが生地作りや成型を行います。

一方フランスでは、1番のベテランがオーブンを担当します。何故ならパン生地の発酵具合を見極めてオーブンに入れたり、焼き色を見てオーブンから取り出すタイミングを計るにはスキルと経験が必要だからです。一流のオーブン番は五感をフル稼働して「焼き」に向き合います。

お客さんも「よく焼けてるバゲットください」とか「もっと焼き色が薄い方をください」など、焼き色にとてもうるさいんです。

日本のパン屋で働いていた時は、焼き色は薄めで均一にと言われました。そのかわり成型の美しさにとても厳しいです。お客さんもしっかり焼けているものより、やわらかそうな焼き色を好みます。この辺の好みの違いも面白いです。

新しいお菓子ばかりがもてはやされて、昔ながらのお菓子が忘れ去られていくのはとても残念です。フランスでもマドレーヌやフィナンシェを作っているパン屋はどんどん減っています。

パン屋さんに行った際は、焼きのプロが作った素朴な焼き菓子を試してみてください。