第135回 世代格差のジレンマ
先日、知り合いの若いビジネスパーソンがパソコンの前で呻吟していた。
どうしたのか?と尋ねると、上司からの課題に悩んでいるとのこと。
その課題とは?とさらに尋ねると、内容をおしえてくれた。
上司から『ダイバーシティの最先端を行く当組織で、サスティナブルなフレンドシップを確立するためのジェンダーレスなレクのプランをサジェストしてほしい』と言われたのだとか。
カタカナ語ばかりで、おじさん(私のこと)にはその上司の話の意味はさっぱりわからなかったが、若者と話しているうちにどうやら内容が見えてきた。
『老若男女の社員が、今後もズッと仲良くしていくための遊びの企画を提案してほしい』ということらしい。
「そう言ってくれたら、おじさんにもわかるし、お手伝いもできるよ。」といくつか案を出してみた。
「インドアなら呑み会、麻雀大会、ボーリング大会、アウトドアならBBQ大会、ソフトボール大会なんかがポピュラーだよね。」
しかし、若者の反応は芳しくない。表情も曇ったままだ。
「あ、もしかして企画書にまとめるのが大変なの?そんなの鉛筆なめなめ、ペライチにまとめたらいいじゃないか。」と言ったとたん、一転して若者が笑い出した。
若者曰く「ほんとに鉛筆なめなめとかペライチとか言う人がいるんですね。」
怪訝そうな顔をしていた(らしい)私に若者が言うには、2,3年前、SNS上で「おっさんビジネス用語」なるものが話題になり、その中の定番として「鉛筆なめなめ」「ペライチ」があるらしいのだ。
そして、「おっさんビジネス用語」はその後もバリエーションを変えてしばしば登場してるらしい。
なるほど、と「おっさんビジネス用語」をネットで検索してみたら、たくさんヒットした。
・一丁目一番地 ・ざっくばらん ・鉛筆なめなめ ・えいや ・交通整理 ・全員野球 ・よしなに ・空中戦 ・仁義を切る ・握る ・なるはや ・いってこい
・ロハ ・ツーカー ・決めの問題 ・寝技 ・ガラガラポン ・がっちゃんこ ・ダマでやる ・ペライチ ・突貫工事 ・ポンチ絵 ・ポテンヒット ・正直ベース など。
中には、5×5のマスに「おっさんビジネス用語」が配置されたビンゴ形式のものもある。
たぶん、若者が会議中に上司の発言から「おっさんビジネス用語」を検知して、タテ横ナナメのビンゴを目指しているのだろう。
なんと微笑ましい。。。などと言ってる場合ではない!
上の「おっさんビジネス用語」は過去の遺物のように言われてるけれど、「おじさん」としては、今もビジネスに欠かせない言葉だとは考えているのだ。
これは若者にちゃんと説明をした方がよさそうだ。
早速、若いビジネスパーソンに抗議、じゃなくて講義する。
「例えば、【一丁目一番地】と言えば、まず最初にやるべきことだよね。「顧客への挨拶回りは営業の一丁目一番地だ」なんて使い方をする。
さらに、これが重要だっていうのが直感的にわかる言葉だよね。皇居の番地だって、一丁目一番地だし。」
すかさず若者が言った「皇居には番地はないです。」(お、そうなのか、適当なことは言えないな・・・)
気を取り直して「【全員野球】と言えば、社員が一丸となってコトにあたることだね。仕事も遊びも【全員野球】で、というのは大切だよ。
語源は、たしか四国の高校の部員11人の野球部が甲子園に出場して、決勝まで進んで話題になったことだね。
【全員野球】の「さわやかイレブン」と言われ、そのイレブンはサッカーでも好成績を残したという。。。」
若者は疑わしい目で見ている。私もこの語源には自信はない。。。
「【空中戦】と言えば、ガメラ対ギャオスだね。そして、戦いの前には【仁義を切る】。
ビジネス上、他の縄張りにちょっかいを出す前には挨拶が必要ってことで、「生まれは葛飾柴又です」と自己紹介をすることからスタートだね。」
「【なるはや】は「なるべくはやく」の略で、今でもよく使うと思うけど、「タイパ」に押され気味かな。」
「【いってこい】は「早く営業に行ってこい」じゃないよ。営業経費XX万円かけても、えいやっと売上でXX万円戻ってくるから、「行って」「来い」だと言われている。
また、昔の中国で、老人の飼っていた馬がいなくなって、周りの人が残念だねって言ってたら、その馬が数頭の馬を引き連れて戻ってきたという故事からだとも言われてる。」
(「それは塞翁が馬」と若者がつぶやいたような気がした)
「【ロハ】についてはおじさんもわからない。只(ただ)言えることは、無料のことを【ロハ】って言うみたい。」
「【ツーカー】は、昔の携帯電話の会社だね。「ツー」と電話をしたら「カー」と答えるような関係で、今のauに引き継がれたんだね。もちろん、auは「アーウー」じゃないよ。」
(若者は黙っている)
「【鉛筆なめなめ】は、鉛筆をなめるように熟考して文章を書くことだけど、誤魔化しの意味もあることは否めないね。そして、今どきは「キーボードなめなめ」と言い換えることが多いね。」
「【ペライチ】は、お笑いのネタを紙ペラ一枚にまとめることだね。お笑い芸人「ハライチ」の専売特許だよ。」という寝技を繰り出してみるが、
若者はもうこちらを見ていない。投了したあとの棋士のように斜め上を見上げている。(それにしても、対局終了後の棋士は、天井の隅に何を探しているのか・・・)
しばらくの沈黙のあと、若者がボソッと話し始める。
「呑み会は、難しいですね。「とりあえずビール」という言葉は若い世代では死語ですし、そもそもアルコールを飲まない人が多いです。
麻雀はやったことないし、お正月にテレビで「ワレメでポン」を見るくらいなんで、「リャンメンコピーして」って言われてもなんのことやら。。。
ボーリングは、サザンの桑田世代までで、われわれはちょっと・・・。
バーベキューはCO2削減の観点から地球に優しくないですし、ソフトボールのボールは、名前に反してソフトではないです。
Facebookを使っているのも、ポケモンGOをいまだにやっているのもおじさん世代です。
ぼくらはインスタでやり取りをしますが、LINEはよほど親しくないかぎり使いません。そしてツイッターじゃなくて、Xですから。
もっと情報リテラシーを高める努力をしてくださいっ!」
なんだかわからないけれど、諫められてしまった。
そして、どうやらおじさんの提案は受け入れられないらしい。
「なるほど、ざっくばらんに言うと世代格差を乗り越えるのは難しいから、正直ベースでは同じ世代でダマでやりたいということだね。
どうしても全員でガッチャンコしたいなら、ガラガラポンでやってくれよ、決めの問題なんだから、ってことなんだね。
おじさんは【よしなに】ってしか言えないよ。。。」
やれやれ、そんなわけで、サスティナブルなダイバーシティは難しいのでドロンします(なんのこっちゃ)。