第99回 「くじ引き市長」と「じゃんけん総長」、某名誉教授から聞いた「東大あるある」の抱腹絶倒
神栖市(茨城県)の市長選挙で、立候補した2人の得票がきっかり同数となり、「くじ引き」で現職が敗れるという椿事があった。くじ引きで決めるというのは、公職選挙法に基づくのだそうだ。法律の条文なんて無味乾燥で面白くも何ともないが、「くじ引き」ってのはいいですねえ。
負けた現職はいまだ諦め切れず、異議を申し立てているらしいが、その気持ちはよく分かる。得票で劣っていたのならいざ知らず、くじ引きじゃ納得もいかないだろう。いっそ、最初から「くじ引き」にすればよかったのにね(笑)
冗談は兎も角として、今回は「くじ引き市長」ならぬ「じゃんけん総長」の話をしようと思う。
「総長」とは、東京大学の総長である。得票数が同じ場合、「じゃんけんで決める」というルールが明文化されており、過去にたった1人だけ「じゃんけんに勝った総長」がいるのだそうだ。くじ引き市長より、じゃんけん総長の方が凄いと思うのは、筆者一人だろうか。
という話を教えてくれたのは、東京大学の某名誉教授で、有名な経済学者である。一夜、盃を交わした折に、座談として聞いたものだ。
座談として聞いたものだからして、話の裏は一切取らない(事実確認はしない)。今回は、聞いたままをお取次ぎするだけである。
東大の総長選挙というのは、およそ他の大学にはない特色があって、「”人間”ならば誰にでも投票していい」のだそうな。
立候補していない人物に投票してもいい。芸能人だろうが、外国人だろうが、構わない。これらは無効票として扱わず、ちゃんと集計するのである。
過去には、「美空ひばり」が100票近く獲得した年があったらしい。一時は「鈴木一朗」も常連だったが、こちらは「イチロー」なのかどうかが判然としないため、致し方なく無効票としたのだという。
「いや~、面白いですねえ!」
とお酒を注ぎながら感心していたら、「じゃあ、こんな話は知っていますか?」と東大の「水道代」の話題になった。
「東大が支払う年間の水道代は、一橋大学の総支出より多い」と言うから、これまた驚かされた。「東大の学生が蛇口を締め忘れるからというわけではありません」と名誉教授は、あたかも講義口調でのたまう。
東大の施設は、駒場と本郷キャンパスだけではない。東大附属病院もあれば、各種研究施設が全国各地に点在している。それらを足し上げると、水道代だけで膨大な支出になるというわけである。
「もっと、何かありませんか?」
と水(酒か、この場合は)を向けたら、「東大が独立行政法人(国立大学法人)化されるにあたって、財産の再評価をしなくてはならないのですが、これがいろいろ悩ましくてねえ」と盃を空けた。
膨大な不動産だけではない。珍しい研究資料が山ほどあるので、これを簿価・時価のいずれかで計上するのかが問題になっているのだという。
「日本に何枚も残っていない大判(大判小判の「大判」である)とか、時価で評価しにくいものが数え切れないほどあるわけですよ。だから、とりあえず簿価で計上しとくかって」
ところが、古書やら絵画、各種標本等の中には寄付されたものも少なくないので、こういう財産は取得原価=簿価がゼロになってしまう。「そういうわけで、独立行政法人としての東大はかなり巨額の”含み益”を抱えているわけです」
こんな調子で、一晩ずっと東大「あるある」について聞き続けた。聞いても聞いても、ネタが尽きることがないのである。それがすべて面白いとなれば、これはもう聞き続けるしかない。
3時間ほど呑んでいたと思うのだが、東大トリビア以外の話題は一切出なかった。名誉教授の専門である経済学などは「経済学の”け”」ほどもない。こちらが、東大のことしか聞かないのだから、そうなるのが当然でもある。
内心では、「東大で1本、特集ができるな」と思っていた。「東京大学の謎」(笑)。結局、特集はやらなかったので、これらの話を書くことは今回が初めてということになる。
会食の終わりに、名誉教授がふと何かに気づいたように言った。「ところで、私は今日何のために、ここに呼ばれたのでしょうか?」
何と答えればいいのか分からなくて、とりあえず「いやあ、興味深かったです!。是非またご高話を拝聴させてください」と誤魔化した。
その後、名誉教授と盃を交わすことは、二度となかった(笑)。

