『満腹の情景』は、フォトジャーナリストの木村聡さんが、雑誌「週刊金曜日」に連載した五四篇の記事をまとめたものだ。まず、その連載期間の長さに驚く。

連載開始は2011年末。東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故により、食の安全が注視されていた時期だけに、さまざまな食の現場をレポートするこの連載は、読者に求められたものでもあっただろう。

本書の冒頭に収められているのも、原発事故による放射能汚染と風評被害に翻弄される、福島県に隣接する宮城県の集落での棚田と稲作について。米と牛の飼料となる稲わらについてのレポートだ。

そして足掛け8年にわたって連載は続き、あらゆる角度から、と言っていいほど、多様な視点で食を捉える。本のカバーを除いて写真はモノクロだが、それでも、食をめぐる問題が、迫力を持って写真から迫ってくる。

他に取り上げられているのは、例えば、ぶどう畑で働く野良着を着たベトナム人技能実習生。いままた、表面化している問題を、いち早く取り上げている。あるいは、今も千葉から野菜をかついで東京に通う行商人の姿を捉える一方で、無菌状態が保たれた室内でコンピュータ制御で野菜が作られる「植物工場」について取り上げる。さらに、炊き出しを受け取るホームレス、高級食材を運ぶトラック運転手のコンビニ弁当、職人が減り、醤油や味噌を仕込む木桶の造り手不足。そんなふうに食を切り「撮」ったレポートが続き、力強い写真と本質を突く文章で、食べものをめぐる「過去と未来」、「日本と世界」とを次々と写し出していくのである。

著者の木村さんは、「わたしが見たいと思っていたのは『食べる』から透けて見える『生きる』だったのか」と記す。そして、「生きる」の先に見ているのは「命」そのものであろう。

われわれは、自らの命を養うために他の生き物の命を食べる。本書からは、何よりそれがリアルに感じられる。その一方で、われわれには、同じ命を持つものとして、他の動植物に寄り添い、共感もするのだ。

だからこそ、突然変異を生み出すために放射線を当てられ続ける農作物や、次々に廃棄され、飼料工場に送られる、大量の消費期限内の食品などを知るにつけ、命がモノとして扱われ、商品として流通し、制度に振り回されることに違和感を覚えるのである。

食肉解体のスペシャリストの男性は、口蹄疫で数千頭もの家畜を薬殺する現場を目にして苦しみ、こう言う。「殺すために殺す。命は絶たれ、そこで途切れた」。

食われる命は他の命を養い、それが未来へとつながっていく。この男性の「肉にナイフを入れるときには、新しい命を入れる気持ちでやります」という言葉が印象に残った。

『満腹の情景』(花伝社/1836円)