今年ももう年末。ミステリー小説をはじめとして、様々な本に関するベストテンが発表されている。私は、毎年歴史時代小説ベストテンに関するアンケートが届くので、年間を通して歴史小説に注視しているが、今年もたくさん収穫があった。そのうち1本を上げろ、と言われると、非常に悩むが、はやり『八本目の槍』という作品になるだろう。

著者の今村翔吾さんの名前を知っている方もいるかと思う。江戸の火消しを扱った「羽州ぼろ鳶組」シリーズや、この世から消えたいと願う人たちをくらましてしまう「くらまし屋稼業シリーズ」が大人気の作家。昨年は、平安期に「童」などと呼ばれて差別された民たちの反乱を描く疾走感あふれる歴史小説『童の神』が大いに話題になった。

そんな、今、乗りに乗っている作家が今回テーマとしたのは、石田三成だ。にもかかわらず、石田三成本人はいわば「脇役」として描かれる。「どういうこと?」と思うかもしれないが、本作は、石田三成が小姓として、いわば青春時代を共に過ごした仲間たち7人を主役とした連作であり、彼らの人生を追うなかで、人間・三成が浮かび上がってくる、という趣向なのだ。

取り上げられているのは、羽柴秀吉が柴田勝家を破った、賤ヶ岳の戦いで武勲を上げ、賤ヶ岳の七本槍と称された、加藤清正、脇坂安治、片桐且元、平野長泰、糟屋武則、加藤嘉明、福島正則の7人。小姓として若き日を共に過ごし、賤ヶ岳での活躍の後、秀吉のもとで出世するが、関ヶ原の戦いでは、敵味方に別れて戦い、それぞれが違う道を進む。彼らが、関ケ原の戦いの前と後、豊臣家と徳川家康の間で揺れる姿が描き出されるのだ。

まず、それぞれを主役とした作品そのものが、短編として面白い。本作は、歴史学者、東京大学史料編纂所教授の本郷和人教授が絶賛しており、歴史好きにはたまらないものがある。歴史に関する分厚い知識と知性を持つ著者が、一次史料を駆使し、史実と逸話の間をさまざまな想像を加えて、彼らの人間としてのありようを、描いていくからだ。

さらにすごいのが、そうやってそれぞれの武将を描きながら、すべての短編を読むうちに、脇役として登場していた三成の姿が大きく浮かび上がることだ。さらに、三成が何を思い、どんな大きな構想を持って動いていたかが、最後に解き明かされる様には、ミステリーの醍醐味がある。

歯ごたえのある戦国歴史小説でありながら、友情をめぐる小説であり、またミステリーの面白さも堪能できるのである。

『八本目の槍』今村翔吾著 新潮社/1800円