『これが見納め 絶滅危惧の生き物たちに会いに行く』

本好きの性で、一度読んで売った本を何年も経ってもう一度読みたくなるときがある。しかし、買おうと思うとすでに絶版で、中古品も高額、というのはよくあることだ。まさにそんな一冊であったダグラス・アダムスの『これが見納め』が、昨年文庫本として復刊し、新刊書店に並んでいるのを見つけたときは、思わずガッツポーズした。

ダグラス・アダムスはSF作品『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズで知られるイギリス人作家だ。数学や科学、コンピュータテクノロジーに精通したダグラスは、物理や数理、テクノロジーをイギリス人らしいユーモア、皮肉とナンセンス、荒唐無稽さで味付し、世界中でカルト的な人気を誇るSF作品を生み出したのだ。そんなダグラスが、BBCラジオの番組制作のため、絶滅の危機にある動物を探訪するルポルタージュが本書である。

ダグラスの魅力は、なんといっても文体と視点だ。むしろそっちが主役、と言っていいだろう。ユーモア溢れた彼独特の言い回しや意外だが真を突く視点が、単なる自然や生物に関するルポと本書を大きく隔てる。また、マダガスカルのアイアイ、ザイールのキタシロサイ、中国のヨウスコウカワイルカの章などは、むしろ「人間という名のサル」の行動と性質をユーモアたっぷりに描いた「人間論」にもなっている。

もちろん(人以外の)動物そのものにフォーカスを当てた描写も素晴らしい。ゴリラと出会ったときの感慨を綴った文章は特に印象深く、また、野生のキタシロサイに出会うという、今となっては奇跡としか思えない出来事の記述も、本当に感動的だ。あるいはニュージーランドの飛べない鳥、カカポについて。私はカカポが大好きで、カカポに関するさまざまな本を読んでいるが、ダグラスによるカカポの説明こそが、あらゆるカカポに関する描写のなかでもっとも素晴らしく、もっとも笑えるものだと思っている。長いのでここでは引用は控えるが、ぜひ本書を買って読んでみてほしい。

さて、実際ダグラスが現地を訪れたのは1985年と1988~89年のことだ。30年以上を経てそれらの動物がどうなったか、読了後に調べてみるのもよいだろう。ダグラスに同行した動物学者のマーク・カワーディンがあとがきで記している以下の文章がしみじみと胸に迫ったくるはずだ。

“多くの人々が、サイやインコやカカポやイルカなどの保護に打ち込んでいるのは、この理由があればこそだ。それはきわめて単純な理由ーーかれらがいなくなったら、世の中はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまうからなのである。”

ダグラスもまた、2001年、49歳で亡くなった。ある意味絶滅危惧種的な人物であったダグラスのいなくなった寂しいこの世界で、彼の真理をついた、そしてユーモアあふれる文体を堪能してみてはいかがだろうか。

『これが見納め 絶滅危惧の生き物たちに会いに行く』 D・アダムス M・カーワディン著 安原和見 訳