『世界は経営でできている』

講談社現代新書の『世界は経営でできている』が売れている。今月発売された同新書のなかで一番の売上で、発売即重版がかかったという。「上司はなぜ無能なのか?」という帯の惹句が人々の心に強く刺さったのだとするとそれはそれで日本における「経営」にとって喜ばしいことは言えないが、ともあれ大きな支持を集めているのだ。

著者自身が本書を(椎名誠らの昭和軽薄体ならぬ)「令和冷笑体」エッセイと書いているように、ユーモアを盛り込んだ独特な文体で、世間のさまざまを「経営」視点で軽妙に語っていく仕立ての本である。夫婦げんか、互いにマウントし合う友人関係、勉強や貧乏、怒りや心労、老後の生き方など、日常を起きることに経営の視点を持ち込んで、解決策を提示する(文体のせいでフマジメに見える結論が示されるのだが真を突いている)。

そもそも「経営」がわからない私は、ただ著者の文章を楽しみながら読み進め、本書の半ばをすぎたあたりで、ようやく、著者が言っている「経営」とは、どうも自分が思っている「経営」と違うらしい、と気づいた。経営とは会社をうまく回して利益を上げること、というよりは、「価値を創造して自分も他者も幸せになること」。限りある資源を他社(他者)より多く奪って利益を上げることも、自分を犠牲にして人のために生きることも、間違いなのだ。

「経営」なんてわからないまま読み進めるうちに、著者の目論見通り、「さまざまな比喩から類推するように真の経営の姿」が浮かび上がる。そしてそれによって日々の暮らしへのものの見方が変わるのである。日常のモンダイの最適解がみつかるわけではないだろうが(日常生活では最適解など現実には存在しないと割り切る方が合理的、と著者は言う)、本書がもたらす視点の変化によって、満足と心の平安は得られる、かもしれない。

『世界は経営でできている』岩尾俊兵著 講談社現代新書