第76回 週刊誌の「おわびと訂正」あれこれ、信じがたい「写真入れ替え事故」の思い出

日本経済新聞では「仕掛け」というらしいが、筆者が所属していた週刊誌編集部では「付き物」と呼んでいた。誌面に使われている写真、グラフ、図表、イラスト等々である。

写真は位置・大きさをレイアウトするだけなので、まぁ誰にでもできるのだけれど、ちょっと複雑なインフォグラフィックスになると、そうはいかない。どうしたって「付き物」はデザイナーに外注することになる。

正社員として抱えるのではコストに合わないので、それ専門の零細企業と契約を結び、3~4人のデザイナーに常駐してもらう。

特集記事に関しては、実は文章よりも「付き物」が重要になることが多い。付き物の原稿(ラフスケッチ)をつくるのも、本文を書くより骨が折れるくらいだ。

今ではZoomなどオンラインでも打ち合わせできるので様子は変わっているだろうが、その昔はデザイナーと時間をかけて、じっくりラフスケッチについて説明、注文するのが常だった。

ラフスケッチは「ラフ」なものではあるが、それでも丁寧に細かくつくるほど、デザイナーにしてみれば「完成図」が浮かびやすい。

時間と手間をかけて説明したはずなのに、出来上がってきた「付き物」を見ると、往々にしてまるで注文と違うものになっていたりもする。

やり直しである。場合によっては、2回3回と手直ししてもらうこともある。週刊誌の入稿作業は、そういう意味でも「綱渡り」である。

筆者くらいデザイナーに嫌われていた記者もいなかっただろう、と今にして思う。ラフスケッチを渡すのが遅い。締切にはいつも遅れ、にも関わらず注文が細かい。納得がいくまで手直しを要求する。サイアクである(苦笑)

それくらい手数がかかるから、インフォグラフィックスに関しては、致命的な間違い・ミスはほとんどない。

注意すべきは、もっと単純なグラフやら表の類である。グラフの目盛りが「百万円」なのに「億円」になっていたりする。

週刊誌は初校・再校(まれには三校もある)を経て下版・印刷に回るので、記者と校正者がチェックをかける機会が各2回ある。それでも、こんな初歩的な間違いを見逃してしまうことが、しばしばあるから困ったものだ。

毎度面白いなぁと思ったのは(面白いなんて言っちゃいけないが)、下版が終わって印刷所に行ってしまったあたりで、こういう間違いは発覚するのである。校正では見つからないのに。

時すでに遅しだ。雑誌が書店に並び、読者の指摘を受ける前から、次号で「おわびと訂正」を出す準備にかかる。

驚いたことに、この「おわびと訂正」の原稿が間違っていたこともある。さすがに、校正で発見され事なきを得たが、危うく大恥の上塗りになるところだった。

さすがに写真に関する間違いはないだろうと思われるかもしれないが、これがあるんですねェ。インタビュー記事で違う人物の写真を載せてしまうことなどは、何年に一度くらいはあったような気がする。

忘れられないのは、同じ号のインタビュー記事の写真を入れ替えてしまったことだ。A社長の記事にB社長の写真、B社長の記事にA社長の写真である。

信じがたい「複雑骨折」である。順を追って原因を調べてみたが、とどのつまりうやむやになってしまった。

校正段階ではゲラに写真が入っていないことも多いため、書いた記者もチェックできない。下版段階でもう一度見ればわかるのだが、本来こんな単純ミスが起こるとは想定していないので、そこまではやらない。

喉元の熱さも忘れぬ頃合いに、同じ間違いをもう一度やった。信じがたいの二乗だが、実は2度とも筆者がやらかした(笑)

もうひとりのインタビュー記事を書いたのも、なぜか2度とも同じ記者だった。考えれば考えるほど奇妙なことではある。

週刊誌記者を23年やったが、写真の入れ替え事故が起こったのは、記憶する限りこの2度っきりしかない。

雑誌に「おわびと訂正」を出すだけでは済まず、編集長と担当記者が揃って、社長さんのところへ謝りに飛んでいった。

不幸中の幸いだったのは(なんて言えた義理じゃないけど)、入れ替え事故に遭った社長(都合4人である)が皆それほど有名でもなかったことだ。

トヨタ自動車のインタビュー記事に、ソニーの社長写真が載っていたら、それはもう大騒ぎになっただろう。

さほど知られていなかったからこそ、校正の目をすり抜けてしまったわけだが、だからと言って言い訳にはならない。

最近は、オンラインメディアに記事を書くこともあるが、こういう間違いがあってもコッソリ修正できるのはいいことだとつくづく思う。紙に印刷されて書店に並んでしまえば、もう取り返しがつかない。

「おわびと訂正」については、まだまだ笑えるネタ(当時は笑えなかったが)もあるけれど、このあたりで筆を擱くことにしよう。どうにも収拾がつかなくなりそうだ(笑)