この原稿に限って、掲載されたものを読むことをなぜかしないのだが、虫の知らせというのか、前回はサラッと目を通してみた。「週刊誌の禁忌(タブー)」である。

鉄道弘済会、セブンイレブン、国税・警察といった国家権力に加えて、もうひとつ「タブー」を書いておいたのだが、編集段階でそっくり削除されていた。どうやら、週刊誌のみならず、メルマガにも「タブー」はあるらしい(笑)。

閑話休題。

いつの回だったか、「靴磨き」について書いたことがあった。取材で歩き回るために、やたらめったら靴のカカトが磨り減り、「こういう靴の履き方をするアンタは、いつかきっととんでもない大金持ちになるよ」と靴磨きのオジサンに言われたという話である。

週刊誌の記者時代、とんでもないスピードで靴のカカトが磨り減ったのは事実である。だが、「タクシー」にもよく乗った。多いときは月50万円くらい使った。

取材の移動も深夜帰宅も、すべてタクシーである。あれだけタクシーに乗っていて、なおかつ靴のカカトも磨り減るというのが、今にして思うと不思議だ。

タクシー代は「取材経費」である。レシートを集めておいて、1ヶ月単位で経費精算をする。スケジュール帳と首っ引きで経路(どこからどこまで乗ったか)を調べて、請求伝票に記入しなければならないのだが、何しろ量が膨大なので、おそろしく時間がかかる。

夜の会食から帰ってきて、21時くらいから午前3時まで経費精算をする。ということが、しょっちゅうだった。日中は取材があるから、経費精算のヒマなどはない。

よく、「その日のタクシー代は、その日に伝票に書いておけばいいじゃないか」と(とりわけ経理担当者から)言われた。それは日がな机の前にいる経理担当者の理屈であろう。あちらこちらと飛び回っている記者の場合は、なかなかそうはいかない。

知り合いのベンチャー企業経営者と飲んでいるとき、そんな話(タクシー代が月50万円くらいかかる)をしていたら、筆者と同い年の彼はこう言った。

「俺はね、運転手付きで専用車を借りているんだけど、月30万円で済むよ」

耳寄りな話だと本気で思った。さっそく、編集長や経理部長に掛け合ってみたところ、「ふざけるな」と一蹴された。

なるほど、「非常識なことを言うな」という、その気持ちは分かる。しかし、実際に月50万円という経費が出ている。会社はそれを認め、支給している。ならば、月30万円の方が経費削減につながるではないか。という提案だったのだが、これ「非常識」ですかね?(笑)。

取材が1日に6件入っているとしよう。すると、実感としては、タクシーで2000円くらいの距離までは公共交通機関より早いし、効率的なのである。

エレクトロニクス業界を担当していたころ、日立製作所、東芝、三菱電機、富士通、NEC(当時は日本電気を略して”日電”と呼んでいた)が主だった取材先だった。あとは、NTTとか日本IBM、キヤノンなどなど。

富士通からNECに移動する場合を例にとって説明しよう。富士通本社は丸の内(現在は汐留だが)、NEC本社は三田にある。都営三田線の大手町から三田まで乗ればいいわけだが、地下鉄駅まで・駅から歩く時間も含めれば、これはもうタクシーに乗った方が早い。10分近く早い。

塵も積もれば山、ではないが、1日6件の取材なら、ほぼ取材1回分(1時間)の時間が、タクシーを使うことによって浮いてくる計算になる。したがって、経理に何と言われようが、タクシーを使わない手はない。

帰宅が深夜になるので、これまた毎日タクシーである。6000円くらいだったかな。休日出勤もザラにあったので、ザッと月15万円ほどが帰宅にかかっていただろう。

50万円から15万円を差し引いたものが、正味で取材にかかった分である。約35万円。それに見合うだけの生産性は確かにある、という考えは今も昔も変わらない。

ちなみに、キヤノンの本社は下丸子(大田区)にある。東急多摩川線の下丸子が最寄り駅で、キヤノンに用事がなければ、普通はまず降りたりしない駅だろう。東京駅からだと40分弱。このくらいの距離だと、電車に乗った方が早いからタクシーは使わない。

しかし、キヤノンの幹部が、取材が終わったあとに、たまさか都心に出かける用事がある。ということがある(キヤノンのみならず他社についても、実際によくあった)。

こんなときには、「タクシーでごいっしょしませんか」と持ちかける。車中でほぼ1時間、余計に話を聞けるわけだ。移動時間がそのまま取材時間になるのだから、まことに効率的である。

社長・会長にはもちろん専用車がついているが、平取(取締役)クラスだとタクシーなので、よくこの手を使った。そういう言葉があるのかどうか知らないが、「ハコノリ(箱乗り)」と呼んでいましたね。

年がら年中、タクシーに乗っていたので、どうしたって彼の業界事情には詳しくなる。変なタクシー運転手に出くわすことも珍しくない。次回は、そんなタクシーがらみの珍事について書いてみようと思う。了