My Bloody Valentine 『Lose My Breath』(Butcher/Shields) 88Creation

弦楽器、管楽器、打楽器。楽器にはそれぞれ、アコースティックに空気を振動させた時の「生の」音量に差異があり、合奏するとき、演奏者たちは他の楽器の音を聞きながら、自らの演奏の音量を調節し、楽器間の音量のバランスをとっていたわけです。

アンプで増幅する電気楽器が産まれ、更に、空気の振動すらない電子楽器が誕生し、音量の調整は演奏者の技術から、ボリュームつまみに変化しました。

また、録音技術は進化し、複数のトラックに音を同時録音したあとで、ミキシングの技術で自在に音量や音色を変更させることが可能になりました。

シャウトが小音量、ささやきが大音量。あえていびつな音像を作り、逆説的に耳心地良くさせる。

MBVは、そうした音像の差異を確信犯的にデフォルメすることで、独自の美意識を完結させることに、心血を注いだバンドでした。

隙間を埋め尽くすノイジーな音は、粒子となり、波状となり、変幻自在に音像を変えながら、立体的かつ網羅的に人の心を揺さぶり、また、宥めます。

http://www.mybloodyvalentine.org/