第59回  「放題」の罠

長年愛用してきたシェーバー(電気カミソリ)が壊れた。

充電池も弱ってきて、切れ味も鈍くなってきたので、そろそろ限界かなと思っていたが、気が付くと外刃(シェーバーの網の部分)が破れていた。(いつでも敵は意外なところに潜んでいるものだ)

ヒゲを剃る代わりに、破れた外刃の網目がささくれ立って、皮膚をランダムに傷つける。

「痛い!」と感じたときには、いくつもの小さな傷と控えめな流血がアゴに曼荼羅模様を描いていた。傷だらけに気づかないほどタフな人間に成長したのかと思ったが、ただ単に神経が鈍いだけだった。

そんなわけで、無数の傷が完治するまでヒゲが剃れない。(本当は新しいシェーバーを買う余裕がないのだが・・・)剃れないということはヒゲは伸び放題だ。

そして、すでにあのスプラッターな惨劇から2週間が過ぎている。
白髪交じり(というか白が優勢なので、黒毛交じり)のヒゲが好き勝手に伸びている。

見ようによっては、あのアニメ映画の監督のヒゲのようにも見えるし、あるいはX-Menのウルヴァリンのようにも見える(って、勝手に思ってる)。

しかし、実際は何の秩序もなくヒゲが伸び放題なので、ただの不精なやや汚い中年にしか見えないだろう。

さっきから不審者を見る眼つきで私をチラ見する若い女性に「シェーバーが壊れたので、仕方なく伸ばしてるんです」と強く訴えたいのだが、行動に出た瞬間に本当の不審者判定をされるに違いない。

単にヒゲが伸び放題というだけなのに、世間の風は思った以上に冷たいのだ。

ヒゲ「伸び放題」で肩身の狭い思いをしている私ではあるが、実は「放題」という言葉に漠然とした好意と畏れを抱いている。

飲み放題、食べ放題、し放題、散らかし放題、やり放題・・・etc.

○○放題と聞くだけで、沸き起こる高揚感。そしてその興奮の裏側でぼんやりと姿を現す焦燥感・・・。

手許の広辞苑第五版によると、

【放題】
1.自由勝手なさま。ぶしつけ。無礼。放埓。
2.動詞の連用形や助動詞「たい」などに添えて、自由に存分に行う意を表す語。
「食い―」「言いたい―」「勝手―」

辞書の「放題」は、自由・勝手気ままになんでもできるように見えるが、実は有形無形の制約があるのが「―放題」。

<例その1>

居酒屋のメニューで「1260円飲み放題!」とあっても、「120分間」と時間制限がついている。しかも「30分前ラストオーダー」と小さく追記されている。なんと飲み放題と言いながら、実質90分しか注文できないのだ。

また別な居酒屋では「120分飲み放題980円(但し、生ビールは含みません)」。

生ビールのない飲み放題で何を飲めと言うのだ!しかも、その上、グラス交換だとぉ!!(思い出して書きながら、ちょっと興奮してしまいました)

またまた別の居酒屋では「飲み放題10分100円」。
10分あれば、生ビール2杯はいけそうだ。20分で4杯。200円で4杯もビールが飲めるぞ!

と、飲み始めると、1杯目はすぐ来たが、2杯目が遅い。
お、やっと来た。遅れを取り戻すために一気飲み。

3杯目も・・・やっときたか、と一気飲み。
この飲み方は酔いが回るのが早いな。。。

予定の4杯目を飲んだところで、酔いで心地よくなってくる。あと10分くらい落ち着いても300円だし。。。

すっかり酔って気が付くと2時間経過・・・。
やばい!120分だと1200円か・・・。これじゃ普通の飲み放題と一緒じゃないか。

で、お勘定を頼むと、2200円!!
なにっ!?
お通しが1000円って!!(ノミホでトホホ)

<例その2>

お寿司食べ放題、2時間1980円。

これはリーズナブルと思って、カウンターにつくと、まずはお店が用意する
寿司12貫を食べ終わってから、好きなお寿司を握ってもらえるシステム。

12貫の寿司は松竹梅の梅ランクかなぁ。シャリも大き目だし、これを食べたら、お腹いっぱいになりそうだ。

えっ!大トロとウニは1貫だけしか頼めないって・・・(タベホでトホホ)

<例その3>

子どもの頃のある時期、日本中にボーリングブームが沸き起こった。
テレビでは毎日ボーリングの放送が流れていた。

女子ボーラーのゲームが中心で、彼女たちは一時期アイドルのようだった。
中山律子プロのようになりたくて、友達と競い合って「りつこさん♪りつこさん♪」と口ずさみながらフェザーシャンプーで洗髪をしたものだ。(ウソです)

ブームに乗って日本中のあらゆる街にボーリング場ができた。
私の住む小さな街にもボーリング場3つできた。3つ併せて75レーンあったが、いつも順番待ちの人でごった返していた。

2時間待って、ようやく1ゲーム。スコアは100に届かないけど・・・料金は1ゲーム300円靴代100円。

いつか思い切り自由にボーリングをやってみたいなぁ。
と思っていたら、1年もしないうちにブームは去って、1ゲーム100円でボーリングができるようになった。しかも待ち時間なし。

これはいい。と通っていたら、ある日、「ボーリング投げ放題500円(8時~12時)」の看板が。

4時間投げ放題!すごい得だ!!

喜んで行ってみたけど、1時間も投げてると飽きてくる。普段使ったことのない軽いボールで変な回転をつけて投げたり、大人が使う重いボールで思い切りガタ―をしてみたり。2時間もやってないのに親指の付け根の皮がむけた。。。

それからしばらくボーリングをしないでいたら、いつのまにか3つあったボーリング場はすべて潰れていた。(ナゲホでトホホ)

<例その4>

ボーリングをしなくなってから、釣り堀に通いだした。
近所にあったその釣り堀は自然の池を利用したもので、貸し竿代100円で釣り放題の穴場だった。

「釣り放題」というと魚を何匹でも釣り上げるイメージだが、実際はまったく魚は釣れなかった。
「池に釣り糸たらし放題」というのが正しいかもしれない。何回か行ったけれど、自分も友達も一匹も釣ったことはなかった。

その池には魚がいなかったのだと思う。
それでもほかに娯楽がなかったので時々退屈しのぎに釣り堀には行っていた。

ある秋の日、中学校が流感で臨時休校になって、生徒は自宅待機(=外出禁止)となった。
もちろん自宅に待機するわけはなく、友達とその穴場の釣り堀に出かけた。
「今日こそ釣れそうだな」とか言いながら、釣り糸を垂らしていると、「君たち釣れてるか?」と背後から声がした。
振り返ると生活指導の先生がいて「校則違反の生徒が二人釣れたな」とニッコリと笑った。(ツリホでトホホ)

「放題」の罠は時代を超えてまだまだ続く。

・ゴルフ練習場
1000円打ち放題。
但し、打ったボールはお客様自身で回収願います。

・有料放送
きょうだけ1日見放題。
でも見たい番組はない。1日見てるヒマもない。

・携帯電話
だれとでも定額で掛け放題。
でも話相手がいない。。。

・スマートフォン
パケットし放題。
万が一パケットし放題にしていなかったら、パケ死します。
お得というより必須です。

・カラオケ
歌い放題。
歌い続けるほど歌を知りません。
人の歌を聴き続けるのは意外と退屈です。

・温泉
源泉かけ流し放題。
循環してたら嫌です。

・ラーメン屋さん
ゆで卵食べ放題。
口の中の水分が全部持っていかれます。
コレステロールも気になります。

・チェンジし放題
いくらチェンジしても、そんなもんです。。。
(なんのことかわかりませんが・・・)

ノミホ、タベホ、パケホ、タイホ、ホイミ、ベホマ、トホホ・・・等々「放題」の例はまだまだ提示し放題ですが、書きたい放題に書いてもキリがない放題な
のでそろそろ止め放題にします。(なんのこっちゃ)

今回の結論:「放題」とは、ひとことで言うと「お釈迦様の掌の上の自由」(と言いっ放しの書き放題)

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