『Invent & Wander』は、国内外で話題の書である。副題に「ジェフ・ベゾス Collected Writings」とあるように、ベゾス自身がこれまで書いてきた言葉や講演、インタビューの内容などをピックアップしてまとめたものだ。それゆえ、これまでAmazonやベゾスに興味を持ち、これまで出版されてきた本を読んできたような人には、目新しい話はあまりないと言えるだろう。

しかし、それでも、本書は読むに値する。何より、ベゾス自身の言葉の持つ生々しさと力強さを感じることができるからだ。よく引用される一部の言葉だけでなく、文章全体を読めるので、これまで知っていた彼の言葉の印象も変わり、行間からも様々なことを感じ取ることができるだろう。

Part1は毎年ベゾスが株主向けに書いている「株主への手紙」で構成されている。有名な1997年の「長期がすべて」から、2019年の分まで、すべてを収録しているのだ。読むほどにその先見性に舌を巻く。そして時代をたどりつつ、一気に読むと、さまざまな思いが湧いてきて実に興味深く、当時の時代背景や自分が何をしていのかを思い出しつつ読んでみると、より面白い。

そしてPart2は、インタビューや講演などから。ワシントン経済クラブでのインタビューを再構成したベゾスの生い立ちに関する「人生の贈り物」「人生を変えたブリンストン大学での出来事」を読めば、ベゾスの人間性や行動原理の元を感じることができ、そのビジネスの有り様への理解も深まる。

近年のものも実に示唆に富んでいる。例えば2019年にブルーオリジンの月探査機を公開したときのスピーチ。amazonは、すでにある通信網や輸送網、決済システムなどのインフラストラクチャーに乗っかる形で大きく発展し、その後AWSというクラウド上のインフラを自身の手で構築した。そして今度は、今後100~200年にわたる次世代の宇宙開発を支えるインフラを構築するために宇宙事業の取り組んでいることがよくわかる。また、GAFAとターゲットにした反トラスト法に関する米国議会下院公聴会でのスピーチの最後の部分は、特に、現在のベゾスの信念に直結するものだろう。

ベゾスの文章や発言は控えめで平易な表現が用いられ、わかりやすく構成されている。そこにある種の凡庸さを見る人もいるかもしれないが、常に、誰にとっても極めてわかりやすく語ろうとするベゾスの態度にこそ、amazonをこれだけ成長させた秘密と深い知性を感じてしまうのだ。

また、冒頭のイントロダクションは、スティーブ・ジョブズやレオナルド・ダ・ヴィンチ、アインシュタインやキッシンジャーなどの伝記を書いたことで有名なウォルター・アイザックソンの手による、簡潔によくまとまった「ベゾス伝」となっていて、ベゾスという人物を手っ取り早く知るには最高のテキストであることも最後に付け加えておきたい。

『Invent & Wander』(ダイヤモンド社)