『ノウイットオール』

第30回松本清張賞を受賞した『ノウイットオール』は見事な野心作である。切縞市という架空の市を舞台に、同じ登場人物たちが織りなす人間模様を描いた連作短編で、1篇目は推理小説、2篇目は青春小説、3篇目がSF、4篇目が幻想小説、五篇目が恋愛小説という仕立てになっている。そんな斬新な体裁を取っているだけに、その仕掛けばかりが評価されて、小説の中身の方は「”新人”(正確には新人作家ではなく2018年にスニーカー大賞の優秀賞を受賞して文庫本デビューしているので2作目)にしてはよくできましたねー」といった程度の作品、という可能性も考えつつ読み進めたが、大間違いだった。

そう考えてしまったのは、推理小説スタイルをとった第一章はいきなり稚拙な印象を読み手にもたらすからだ。しかしそれも著者の戦略なのだ。続く第二章の青春小説篇は実に素晴らしい出来。そして、第一章の古典的な設定の探偵小説とも、第二章の漫才でM-1優勝を目指す高校生の日常を描いた青春小説とも、本来はつながるべくもないSF篇や幻想小説篇が、見事につながっていく後半の展開は読んでてい本当に心地がよい。

仕掛けは見事だが、仕掛けに頼った小説というわけでもないという点も強調しておきたい。たとえば第二章は単体の青春小説としても心を揺さぶられる作品で、この短編だけで著者の小説家としての実力は保証できるだろう(もちろん、五章の幻想小説篇がそこにつながることでさらに感動を呼ぶ作品へとなる構造も見事なのだが)。

著者の次の作品への期待がいやがうえにも高まってしまう。仕掛けに満ちた作品も読みたいし、ただシンプルにじっくり腰を据えて市井の人々の姿を描いた小説も読みたい、と思う。きっとどちらであっても、素晴らしい作品になるに違いない。

『ノウイットオール』 森バジル著 文藝春秋