『空は世界のひとつ屋根』

イラストレーターにして寡作の漫画家、鶴田謙二の新刊『空は世界のひとつ屋根』が出た。120ページ弱で、定価1400円。コミックスにしては高い! となりそうだが、こんなに素晴らしい「世界」をたった1400円で堪能できるなんてお得としか言いようがない。

2次元の世界にここまで奥行きを作れる漫画家は他にいないだろうう。昼の空の青と雲の白、海の青と波の白、夜空の青と星の白が、無限に広がる世界をつくり、その中にポンにおかれたキャラクターが(超個性的であるにせよ)、極めて自然に動き出す。

「独立村国」である絶海の孤島、奥の鳥島にある空港が舞台。小さな島だから小さな空港、というわけではない。頓挫したスペースシャトル事業のために作られた、精度の高い本格的な空港だ。それがちっちゃな島にどーんと鎮座している。空港と空と海の広大さが点のような島から一気に広がる。鶴田にはまさにうってつけの舞台である。その空港の「持ち主」で空港長である神鳥葉桜(しとどは・せれっそ)がヒロイン。2年前に刊行された『モモ艦長の秘密基地』のモモもほぼほぼ服を着ていなかったが、セレッソも島ではほぼ半裸で暮らしている。性的なものというより、日常と怠惰と自由さの明朗な表現であるのだが、その筆致はやはり巧さが際立つ。

嬉しいことに『冒険エレキテ島』(1巻が2011年、2巻が2017年に刊行)のヒロイン、飛行機便を営む御蔵みくらも登場するし、他にもおお!というような別作品のヒロインが現れて、鶴田作品の世界の広がりを堪能できるだろう。

読み終わってしまえば、「さて、続きが読めるのは何年後か」と少し淋しくなってしまうが、そのこだわり抜いた表現世界を一読するだけで済ますのはもったいない。続篇が刊行されるまで、何度も読み直すことになるだろう。

『空は世界のひとつ屋根』 鶴田謙二 白泉社