第4回 フランス人、家を買う

ずっと、自分の家が欲しいと思っていました。

今までさまざまな国や町に住んできましたが、日本で家族を持ち、お店も軌道に乗ってくると、自分の家というものが切実に欲しくなったのです。

どんな場所でどんな家に住むか?
物凄い田舎、築100年位の古民家、海辺の家、畑の真ん中にある家、竹林があるetc

理想はいろいろありますが、現実的には、生活の糧であるパン屋に通える距離で、子どもの高校通学も可能な場所の範囲内での家探しがはじまりました。

これまで賃貸住宅で暮らしていた横浜市は便利で、人々はとてもオープン。外国人にも住みやすいところです。

ただ地価が高いのと、もっとのどかなところに住みたいという願望がありました。

そんな私たちが選んだのは、神奈川県三浦市でした。
交通の便やインフラは横浜市とは比べものになりませんが、海が近くて空気も良く、食材も豊富です。

奥さんがインターネットで見つけた物件を見に行き、即決しました。

私たちが選んだ家は、築20年の鉄筋住宅。
理想の古民家とはほど遠いですが、庭が広く、なにより立地が最高でした。

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リフォーム前の我が家

目の前に家がないから開放感があり、隣近所も離れているので気兼ねなく工事ができるというのが大きなポイントのひとつとなりました。

不動産屋さんに庭を見せてもらっている時に、次々とDIYのアイデアが生まれてきました。そんな家に出会ったのです。

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先ほどもお話したように、理想の家は人それぞれ違います。
私は、駅の近くや便利なところより静かな場所が好きだし、新築の家より中古をリフォームしたいと思っていました。

神奈川ではおしゃれで人気のある鎌倉や葉山よりも、私にとっては三浦のほうがホッとできます。

三浦の家は海が近いですが、家から海は見えません。家の窓から海が見えるか見えないかで、値段が何百万も変わってくるそうです。

人の価値観っておもしろいですね。

家探し中は何が自分たちの人生にとって大切なのか?なんて真面目なことを考えたりしました。

私たちにとって理想の家を見つけたら、次はお金の話です。

日本で私のような外国人が住宅ローンを組むのは、簡単なことではありません。

銀行で住宅ローンを組む時は、年収だけでなく、いわゆる「属性」というものが問われます。

良い「属性」のカテゴリーに入るのは、公務員、上場企業の社員など。
反対に、私のような自営業の外国人は最悪です。

自営業=収入が不安定、外国人=借金踏み倒して外国に逃げる可能性あり、と銀行は判断するらしいです。

フランスでは、頭金と収入さえあれば「属性」によって住宅ローンを組めないことはほぼありません。

日本に来てからずっと真面目に働いてきたし、年金や税金も払ってきたのに・・・。

案の定、メガバンクにはあっさり断られましたが、住宅金融公庫でローンを組むことができました。

そして住宅ローン締結の日。銀行に出向くと、思わぬ苦難が待っていました。

なんと、私自身が契約書に住所を自署しなくはならないと銀行の担当者が言うではありませんか!しかも大事な契約書だから一言一句間違えなく!

私は日本語を理解できますが、読み書きは全くできません。自分の名前をカタカナでサインするがやっと。
契約関係は今まで奥さんにおまかせだったので、これは予想外でした。

銀行員はゆっくり書き写せばいいから大丈夫ですと簡単に言いますが、あなたがアラブ文字を書き写せと言われたらできますか?と言ってやりたかったです(笑)

日本人が書いたら数十秒で書き終わる住所を、15分くらいかけてようやく書き終えました。

しかもその間、銀行員達が私の手元をじっと見つめていて冷や汗が止まらなかったことを、今でも忘れられません。

さらに一週間後、わざわざ支店長がお店にやって来て、漢字が一文字違えているからと訂正させられました。日本の銀行って不思議です。

そして、大変な思いをしたローン契約のあと、無事家の引渡しが完了しました。
この家の物語は、ここから始まります。

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