第55回 「共創型サービスモデルを考える ~共創のための競争プラットフォーム~」
先日、紅葉のきれいなオリンピック記念青少年総合センターにて日本ナレッジマネジメント学会主催の国際シンポジューム「企業・コミュニティー・社会における組織知の新たな形成に向けて」にパネラーとして参加しました。
(オリンピック記念青少年総合センターの紅葉)
パパクワッチが提唱する共創型サービスモデルの概念は、ナレッジ・マネジメントの世界でも活発な議論が行われています。
一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が提唱する知識創造理論(SECIモデル)の概念をベースにディスカッションが行われました。
(SECIモデル)
その「共創型サービスモデル」について、このコラムではシリーズでお送りしていますが、今回は最近ブームのクラウドソーシングの仕組みを運営する企業を紹介したいと思います。
■クラウドリソースによるソフトウェア開発
topcoderは、世界有数の競技プログラミングサイトであると同時に、世界中の技術者が腕を競い協力しあいながらさまざまなソフトウェア・システムを開発するクラウドソーシングプラットフォームです。
(topcoderウェブサイト)
同社のサイトによると、マサチューセッツ工科大(MIT) アンドリューマカフィー氏が非常に端的な言葉でtopcoderの魅力を語っています。
“「私たちは、過去に例を見ない方法で天才的な頭脳を探しだす事ができるようになりました。
今日存在するコンピュータ資源とtopcoderという本当に賢明な組織のおかげで、私たちはこの頭脳にクリック1つで会えるのです。」”
■「群衆(crowd)にアウトソーシング(outsourcing)」
クラウドソーシングの定義を調べると、不特定多数の人の寄与を募り、必要とするサービス、アイデア、またはコンテンツを取得するプロセスとあります。このプロセスは、多くの場合、細分化された面倒な作業の遂行や、スタートアップ企業・チャリティの資金調達のために使われると言われています。
クラウドソーシングは、群衆(crowd)と業務委託(sourcing)を組み合わせた造語で、特定の人々に作業を委託するアウトソーシングと対比される概念と定義されるようです。
■対象となるテーマは3つ
まず、アプリケーションの構築。
これは、スマートフォンなどモバイルアプリやSalesforceのForce.comやAmazonのAWSなど、クラウドプラットフォーム上のサービスなどの環境で、先進的なプログラミング言語での開発です。
続いて、新しいデザインの作成。さまざまな業務システムのUIを改善します。
世界各国のデザイナーがバラエティーに富むUI/UXを提案します。アプリケーションのプロトタイプコンセプトからワイヤーフレーム、クリエイティブなグラフィックデザインにも対応します。
最後に、データサイエンスとビッグデータ分析。
さまざまなサイズ、形状、種類のデータに対応しています。既存のデータ・セットから情報を解読し、将来的な成果や傾向を予測する予測分析や機械
学習、グラフ理論、回帰、動的計画法などを駆使した最適化も対象としています。
■コミュニティーで駆動する競争の精神
では、topcoderはどのような仕組みで運営されているのでしょうか?
topcoderコミュニティーは、世界最高の才能たちが、ある時は競い、またある時は互いに学び協力する”場(ba)”です。
トップコーダーにおいて、”競争”が核である一方、コミュニティーの”協力的な空気”もまたトップコーダーを特別なものにしていると言われています。
■世界の競技プログラマーと競うプラットフォーム
-チャレンジ
トップコーダーには3種類の競争の場(デザイン、開発、そしてデータサイエンス)があることはご紹介しましたが、それぞれの場で、メンバー達は競争
しながら顧客がもつ現実世界の課題に挑戦し、問題を解決します。
複雑なシステムは、グラフィックデザイン、アーキテクチャー、アルゴリズムなど多数の領域に分解され、それぞれの領域が得意なメンバー同士が競争して全体のシステムが作り上げられます。
-協力
メンバーは勝者になるために競争していますが、その一方で、お互いに仲良くなり、助言をしたり励ましたりする関係を構築します。
topcoderには、友好的なライバル関係がありつつもリアルなコミュニティーのような雰囲気が育まれるようです。
世界中から集まり、同じチャレンジに挑戦するトップコーダーたちが、ディスカッションを行うフォーラムで、他の参加者へのヒントを教えることも珍しく
ないそうです。
-ピアレビュー
ピアレビューは、メーカの製造検査担当者が各製品を検査機に入れるようなもので、 レビューボードがすべての納品物をそれぞれ検査し、高品質の成果物を作り出します。
ピアレビューのプロセスでは、ディスカッションやフィードバックのメカニズムを通してレビューワーと納品者のどちらもが学び、 アウトプット
や技術的な品質を更に高める仕組みです。
-結果とレーティング
成果物に対するレーティングシステムが存在し、開発やデータサイエンスのチャレンジにて、競技者は提出物の内容と信頼性で評価されます。
■共創のための競争プラットフォームの魅力
なぜ、全世界で90万人もの人々がtopcoderに登録し、活動を繰り広げるのでしょうか?
単に”賞金”目当てでこれほど大きな共創型コミュニティーは形成されないのではないでしょうか。
そこには、競い合いながらもお互いが協力しあい、新しい技術やデザインを学べる環境があることが、参加者の大きな動機付けになっていると考えます。
共創のために競争の概念を持ち込むだけでなく、個人の成長を支えるプラットフォームの大きな特徴ではないでしょうか?
(つづく)
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