大学を卒業して、出版社に入社した1987年当時は、携帯電話もパソコンもなかった。

厳密に言えば、あるにはあったのだが、使っているのはごくごく限られた人たちでしかなかった。携帯電話なんて、「携帯」できないくらい大きかったし、やたら値段も高かったしね。

編集部の電話は「ダイヤル式」だった。すでにプッシュホンが主流になっていたので、これはいかにも古すぎるな、と呆れたことを覚えている。

記者の大半は、「手書き」で原稿用紙に文字を埋めていた。今では入稿作業がオンライン化されており、さすがに手書きは許されなくなっている。

21世紀になってから編集部専用の原稿用紙が廃止されたので、10冊ほどガメてきた。「冊」というくらいだから、冊子になっていて、必要なだけ切り離して使うのである。これは、今でも大事に(でもないけれど)保管している。

富士通のワープロ「オアシス」が3台くらいあったのかな。大学でもパソコンはおろかワープロさえ使ったことがなかったので、配属当初はもちろん「手書き」である。

だが、年が近い先輩がみなワープロを使っていたので、数ヶ月もしないうちにオアシスに乗り換えることになった。

40人くらい記者がいる編集部に、たった3台である。そもそもワープロになんぞ見向きもしないジジイが多かったのだが、それにしても3台は少なすぎた。新入社員はよく「順番待ち」をさせられたものだ。

入力方式が富士通独特の「親指シフト」と呼ばれるもので、このキーボードはさすがに今は市販されてないんじゃないかな。

日本語入力に限って言えば、ローマ字変換より優れている(と言われていた)のだが、いかんせん採用しているのが富士通1社しかなく、程なくして廃れていった。

廃れた最大の原因が、パソコンの普及である。1990年にIBMが「DOS/V」(ドスブイ)という日本語オペレーションシステムを公開し、安価なパソコンがどどっと発売されたのだ。

NECの「98シリーズ」の独壇場だったマーケットに新規参入者がなだれこみ、さらには1995年の「ウィンドウズ95」のブレイクで一気にパソコンは普及する。

親指シフトが使えないので、ローマ字変換で試行錯誤しながら記事1本を仕上げて、一夜にしてオアシスからパソコンに乗り換えた記憶がある。ウィンドウズのバージョンは「3.1」だった。ウィンドウズ95の1つ前の世代ですね。

もちろん、編集部にはパソコンは1台もない。自腹である。90年代のうちには「1人1台」に変わっていたように思うが、このあたりは定かではない。

ウィンドウズ95が発売された1995年前後は、今にして思えば社会を一変させたイノベーションが相次いだ区切りとなっている。

1992年には初のインターネットプロバイダー、IIJが設立された。1994年には携帯電話の売り切りが解禁され、それまでのレンタル制度がなくなった。高額な保証金が要らなくなり、端末も大幅に小型化された。

いわゆる「新しいもの好き」だった筆者は、パソコン、インターネット、携帯電話どれもこれも会社の中では一番乗りで試してみたものだ。

プライベートのメールアドレスはいまだに「bekkoame(ベッコアメ)」を使っている。IIJ、ベッコアメ、リムネットが「御三家」と言われていた時代である。ベッコアメのアドレスなんて、見かけないもんねえ、昨今は。

携帯電話も、94年の端末売り切り開始と同時に入手した。これまた昔懐かしいIDO(日本移動通信)の端末である。

ジャイアント馬場がCMに起用され、「ワンフィンガー」という触れ込みで売っていた。つくっていたのは自動車部品最大手の「日本電装」(!)で、端末の長さがジャイアント馬場の指くらいしかないものだ。今見ても小さいし、デザインも新しい。

IDOのネットワークが脆弱だったので、すぐにNTTドコモに鞍替えすることになったが、あのワンフィンガーは惜しかったな。

当時はMNPもなく、通話品質を重視すれば、通信会社ごと変えるしかなかった。もちろん、番号も変わってしまうから、不便なものだった。

余談になるが、トヨタ自動車の関係会社だったIDOは、紆余曲折を経て今ではKDDIとなっている。auですね。

このあたりの通信会社再編もずっと追ってきたので、これだけでメルマガ1本書けるくらいだが、本筋から脱線するので他日に譲ろう。

パソコン、インターネット、携帯電話が出揃って、次の「波」が押し寄せるのが2007年。iPhoneの登場である。

初代のiPhoneは通信規格の関係で日本では発売されず、翌08年にiPhone3Gを真っ先に手に入れた。「ワンフィンガー」以来の衝撃でしたね。趣味も働き方も、これ1台で大きく変わる。と実感させられたものだ。

個人的な経験としては、iPhoneユーザーとなって間もなく、パソコンもウィンドウズからMacに変えた。

会社で支給されないので、自分で買ってきて勝手に使い始めたのだが、これまた驚きの連続でしたね。圧倒的に使いやすいし、動きも早いし、ストレスがないのである。

いろいろ理由はあるにせよ、今でも大企業で使われているパソコンの大半が「ウィンドウズ」だということが信じられない。編集部のパソコンもすべてMacに置き換わった(と聞いている)が、当然の成り行きだろう。

こうして振り返ってみると、この四半世紀あまりで起きた技術革新が、いかに物凄いものであったかが、よくわかる。

パソコンもインターネットも携帯電話もなくて、今、仕事ができますか? テレワークができますか?

ほとんどの人々が自覚していないけれど、人間の生産性は機械のそれの何倍、何十倍も向上しているのですよ。

そして、これもまたほとんど自覚されていないけれど、ITによる生産性向上は人間の「負荷」をも恐ろしいほど大きくしている。

そんなことを、ふと思った、長い長い梅雨の1日。さっさと明けてくれないかなぁ、と願う今日この頃です。