夏木マリ「むかし私が愛した人」(小西康陽)95Wildjumbo

幾重にも架空の衣をまとっているのが、ポップミュージックの本質だとしても、これほどまでにヴァーチャルさを過剰に着こなしている音楽も珍しいかもしれません。

日本のドメスティックな女優である夏木マリが、60年代のヨーロッパの女優を演じ、アンニュイにジャズを歌う。

その着地点は、あくまでも日本の音楽が持つ、曖昧な独自性を濃厚に放ちます。

日本語の「ことば」の持つ強さを意識した歌詞が、歌謡曲風のメロディーで紡がれる。
ラテンフレイバーにも目利きした、フレンチジャズ風の演奏がその表面を彩る。

小西氏のこの見事なコンセプトに、堂々と対峙してみせるマリさんの歌声は、ヴァーチャルな表層を泳ぎながらも、「母親ではない」女性の、悦楽と哀愁を鮮やかに表現しています。

http://marinatsuki.com/