第5回 洋菓子屋Xの検診

高校時代の友人で、今はオーナーパティシエ(というか町のケーキ屋さん)をやっている男がいる。

名前は仮にXとするが、Xとは年に1,2回程度、思い出したように連絡を取り合って呑む。

先週、久しぶりにXと呑んだ。
彼は仕事柄、甘いものを毎日食べ、そのうえお酒にも目がない。いわゆる両刀遣いだ(って、変な意味じゃないですよ。誤解なく)。

甘辛両方いくので、体格はすこぶるいい。山本山ほどではないが、ちょっとした力士並みの体格だ。

居酒屋で座るXの尻の下にはもちろん2脚の椅子が彼を支えている。

「今、体重何キロになったの?」
とつい聞いてしまったのだが、Xは困った顔で、
「実は周りにも言われて、この前、人間ドックに行ってきた」と言った。

で、表題の「洋菓子屋Xの検診」ということなのですが、なんだか東野圭吾のミステリ「容疑者Xの献身」に似てますね。もちろん偶然ですが。

余談ですが(って、このすべてが余談なのですが)、「容疑者Xの献身」のガリレオ(湯川学准教授)って、格好いいですよね。たぶん福山雅治のイメージがついてしまっているのでしょうが、原作でもクールでスマートな人物に描かれてます。

そもそも日本のミステリ(探偵小説)に登場する名探偵はあまりカッコよくないという伝統があります(って、勝手に断言してみました)。

日本の三大名探偵をあげるとすれば、明智小五郎、金田一耕助、神津恭介の3人でしょう(とまた勝手に断言します)。

明智小五郎は、テレビや映画ではスーツを着こなして、都会的なイメージがありますが、デビュー作では和服姿でもじゃもじゃ頭、今で言うフリーターみたいな感じで登場しています。

金田一耕助は、それをそのまま真似したかのように、よれよれの和服にもじゃもじゃ頭で冴えない中年男(デビュー作では20歳くらいのはずですが)です。

神津恭介は、その二人にくらべると、まだ現代的でガリレオに近いかもしれません。でも福山雅治に比べると女性にもてそうな気配はありません(やばい。小説と現実がごっちゃになってきている)。

基本的に名探偵は独身が多いです(いきなり話が飛びました)。
シャーロック・ホームズは独身ですね。エラリー・クイーンもエルキュール・ポワロも結婚したって話は聞きません(といっても、そんなに読んだわけではないので私が知らないだけかもしれませんが)。

先にあげた日本の名探偵3人ももちろん独身です。と言い切りましたが、明智小五郎は結婚してますね。

彼は緑川夫人(黒蜥蜴)と妖しい関係でしたし、小林少年と怪人二十面相と三角関係という噂もあります(少しだけ創作ですが)。

いわゆる両刀遣いでしょうか?(これは変な意味ですが)

金田一耕助は独身です。もてなさそうで、もてたりしますが、基本フケ頭なので、やっぱりもてないですね(頭はよく洗いましょう)。作中失恋してたりします。あ、でも金田一一君という孫がいますね。どこでうまいことやったのでしょうか?
(「じっちゃんになりかけて」からがんばったのでしょうか?)

ルパン三世の場合は、アルセーヌ・ルパンが作中5回も結婚してるので、日本に孫がいてもそれほど不思議ではないのですが、金田一耕助の場合はちょっとした謎です。この謎を解く話があってもよさそうな気がします。

神津恭介はたぶん独身でしょう(それほど読んだことがないので、結婚歴があったら、ごめんなさい)。

彼は入院中にベッドで推理してるときに、その資料や手がかりを持ってきてくれる女性と親密になりそうなこともありましたが、クールでペダンチックな彼はその先に進まないです(でも、本に描かれないところで、よろしくやっているのかしら・・・。気になる)。

最近の日本の名探偵も独身ですね。
たとえば浅見光彦も金田一一も江戸川コナンも独身です。
(子供だという噂もありますが)。

結論としては、「名探偵は独身だ」ということです。ゆえにその対偶の「独身でないなら、名探偵でない」というのは真なのです(なんのこっちゃ)。

という話ではなくって、友人「洋菓子屋X」の検診の話でした。

病院で人間ドックにかかった結果、Xのもとには大量の「再検査を要す」というコメントの書かれた赤い紙の束が段ボール箱で送られてきたそうです。

それを見てXは、甘いものを食べるのはやめようと決心したのです(「洋菓子屋Xの決心」)。

ケーキを作りながらつまみ食いはしないし、売れ残りのケーキも食べないと決めました。でも、残ったケーキを捨てるのはもったいないので、近所の人に配ってるそうです。

その結果、売上が落ちて、その分近所の人がふくよかになったそうです。

お酒は適量しか呑まないことにしました。呑みのスタイルを変えることにしたのです(「洋菓子屋Xの変身」)。
Xの適量とは具体的にどれくらいかわかりませんが、肝臓に負担をかけないと自分で決めた量のようです。
いっしょに呑んだ時もXは「適量」呑んでました。いつもと量は変わりないようでしたが、きっと私と呑むときが「適量」なのでしょう。

もちろんその日、いっしょに呑んだ私の記憶がなくなったことは言うまでもありません。
現役の力士の呑む「適量」は半端ないのです。

って、Xは力士ではなく、洋菓子屋なのですが・・・いっそ力士になったほうがいいように思います(「洋菓子屋Xの転身」・・・なんのこっちゃ)。

教訓「両刀遣いには気をつけろ!」(と言われても・・・)

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