第44回 裁くのはオレだ
前回サーバーの話を書いたところ、何を勘違いしたのか、知人から依頼がきた。
「プリントサーバーを設置してほしい」と。
正直なところ、私はITやネットワークに関してはまったくの素人だ。
前回は見栄を張って、Ubuntuの小型サーバーなどと書いてみた。
もちろん、ネットからの受け売りだ。
なぜ見栄を張ったかというと、
・「サーバーを構築する」とさりげなく書くと、ITリテラシーの高い人間に見られるかも知れない。
・将来有望な若者から尊敬の眼差しで見られるかも知れない。
・若い女性の憧れの的になるかもしれない。
そんな男っぽい理由からだ。
私は好奇心は強い。でも飽きっぽい。そして、ただの中年だ。
タフなふりをしなくては生きていけない。いやらしくなければ中年じゃない。
たしかフィリップ・マーロウも似たようなことを言っていた。
話はそれたが、見栄は、張り続けるから見栄だ。
「かわいい女」がチャンドラーなら、「可愛いベビー」は中尾ミエだ。
とにかく、プリントサーバーの設置の件は、引き受けた。
ビールサーバーを設置する程度に簡単にできるはずだ。
(実はビールサーバーの炭酸ガスをいつもうまくセットできないのは秘密だ)
プリントサーバーとは何か?まずはここからスタートだ。
Wiki先生で調査。
『プリントサーバは、コンピュータネットワーク上に配置されたあるプリンターを、複数のクライアントコンピュータから利用する際に用いられる、制御用コンピュータである。プリントサーバは複数のクライアントから同時に印刷要求があっても、これを適切に処理し、プリンターが順序よく印刷をこなすための管理を行う。』
要はクライアントから依頼された仕事を上手く裁くってことだ。
私立探偵の仕事と大差ない。
しかしプリントサーバーはコンピュータだ。人ではない。
私は家電量販店に行くことにした。
ヨドバシカメラ。
丸い緑の山○線、真ん中通るは○×線。新宿○口駅の前、カメラはヨド○シカメラ~♪(正確に書くとJASR○Cから報酬を要求されるのだ)
店員をロックオンした。
私「プリントサーバーを見せてくれ・・・」
店員「こちらバッ○ァロー社の無線タイプのものが6,880円です」
私「高い・・・」
私は静かにその場を離れた。
ビックカメラ。
ビーック、ビック、ビック、ビック、ビク♪(誰かのネタだ)
店員を捕獲。
私「プリントサーバーを見せてくれ・・・」
店員「こちらバッ○ァロー社の無線タイプのものが6,980円です」
私「高い・・・丸い緑の山手線の店より100円高い」
店員「!!少々お待ちください。」
・・・少々待った。
店員「6,780円でいかがでしょう?」
私は静かにその場を離れた。
カーメラはリンリンカンカン、かーめはめーはー♪のお店(ドイ?)は近くにないので、またヨドバシカメラに戻った。
店員をロックオン。
私「プリントサーバーだが、ビックビクのお店はここより100円安かった・・・」
店員「!!少々お待ちください。」
・・・少々待った。
店員「6,680円でいかがでしょう?」
私は静かにその場を離れた。
ビックカメラに戻った。
店員を捕獲。
私「プリントサーバーだが、真ん中通るは中央線のお店はここより100円安かった・・・」
店員「!!少々お待ちください。」
・・・少々待った。
店員「6,580円でいかがでしょう?」
私は静かにその場を離れた。
ヨドバシカメラに戻った。
私「・・・」
店員「わかりました!6,480円でいかがでしょう?」
私は静かにその場を離れた。
・・・・・
これを延々と繰り返し、2つの店同士の抗争を誘因し、どちらも自滅に追い込んだ。
まるで、黒澤明の「用心棒」かハメットの「赤い収穫」だ。
(「用心棒」は「赤い収穫」の翻案だから、いっしょだ)
それはさておき、5,780円でプリントサーバーを手に入れた。
知人の家に行った。
知人は留守で、寝室に若い女性の死体があった。
ということはなく、知人はいた。
私「プリントサーバーを設置にきた」
知人「おっ!さすがに仕事が早いな」
私「オレの信条は、早い・うまい・やすいだ。もちろん依頼人の秘密は自分だけで楽しむ。オレに後ろ指をさすな。オレは握手はしない。人の手汗でアレルギーを起こすからだ。義務教育には遅すぎる。オレは」
知人「お前が何を言ってるのかわからない。でもオレは自分のやることはわかってる。」
私「?」
知人「これからプリンターを買いに行く。じゃあ、さよなら」
私は「さよならを言うことは少しだけ死ぬことだ」という言葉を呑み込んで、フツウに死んだ。
※本稿はすべてフィクションです。
参考文献:「裁くのは俺だ」ミッキー・スピレイン著、「プレイバック」「かわいい女」「長いお別れ」レイモンド・チャンドラー著、「赤い収穫」「マルタの鷹」ダシール・ハメット著、「さむけ」ロス・マクドナルド著、「ゴルゴ13」さいとう・たかを著
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