第124回 「何もない」話

8月の初めに根室に行ってきました。
根室といえば、納沙布岬です。
納沙布岬は日本本土の最東端です。
日本「本土」というのがミソですね。

納沙布岬からボンヤリと北方の島の影が見えます。
近くて遠いその島の手前を海上保安庁の巡視船(たぶん)が航行しています。

これ以上の深い話は私の守備範囲外ですので、根室市内の話をしましょう・・・と思ったのですが、花咲ガニとサンマを食べた話以外は何もないことに愕然とするのでした。
とにかく何もないのです。。。(地元の人に怒られそう)

そういえば、「襟裳の春は何もない春です」という歌詞に、私の父が怒っていたことを思い出しました。
父は襟裳の人ではありませんが、「何もないことはない。道はあったし、駐車場もあった」と憤慨していました。

さて、その父は90歳をとっくに過ぎていますが、元気に一人で暮らしています。
先日も父のところへ行ってきました。
その時、初めて気づいたのですが、毎年、家の横の畑にトウキビが大量に植わっているのですが、今年は何もないのです。
(「トウキビ」は方言かもしれませんね。「トウモロコシ」のことです)

「今年はトウキビ作るのを止めたの?」と私。
「それを作れば、カ&%〇×#$来る」と父。
「?」
その時、入れ歯を外していた父の言語は不明瞭でしたが、どうやら「それを作れば、カレがやって来る」と言っているようでした。

「それを作れば、カレがやって来る」
そう、このセリフは映画「フィールド・オブ・ドリームス」のケビン・コスナー扮する主人公が、彼の所有する広大なトウモロコシ畑で聞いた謎の声です。
そして、この声に触発された主人公がトウモロコシ畑を潰して、野球場造りを始め、数々の奇跡を起こすのでした。

そんな連想をした私は、思わず「野球場を造るの?」と父に聞いてしまいました。
「そんなデカいモノは作らんけど、パークゴルフ場を作るんだ」と父。
「いやいや、パークゴルフ場も十分にでかいと思うけど」
「うん。ワンホールだけ作る。でな、頼みがあるんじゃが・・・」

父の頼み事とは、パークゴルフのカップを探してほしいということでした。
近くの小さなホームセンターで探したけれど、売ってなかったらしく、大きなお店に行った時に買ってほしいと。
「ほい」と安請け合いしたものの、通常のゴルフ練習用のカップは売っていたものの、パークゴルフのカップは見つけられませんでした。

というわけで、Google先生の出番です。
検索をして、すぐに購入できるショップを見つけました。
受注生産らしく、結構なお値段です。
早速、購入手続きをすると、すぐにショップからメール返信がありました。
「当製品はパークゴルフ協会認定品の為、ご利用されるコース名の届けが必要になります。」

え?パークゴルフ協会認定品?
個人購入はできないの??
それとも、1ホールしかないけれど、コース名をつけて届ければいいのかな??
ちょっとだけ考えて「個人購入はできませんか?」とメールで尋ねてみました。
「個人購入の場合は、個人名を登録していただきます」と返信がありました。
現在、私の名前がパークゴルフ協会に登録されている(はず)。

それはさておき、無事にパークゴルフ用のカップが届きました。
直径がゴルフカップの2倍なので、結構大きいです。
バケツかと思うサイズで、ホールインワンも簡単にできそうです。

父にカップを届けると、「これはスゴい!ホンモノだな!」と大喜びで、私もちょっと親孝行したような気分になりました。
その直後、父は言いました。
「ところで蕎麦を打とうと思ってるんじゃが、のし板がないんじゃ」
「?」
パークゴルフかと思ったら、蕎麦??
・・・どちらも、しっかり手で打ちます。お後がよろしいようで。。。じゃないよ。

気を取り直して、聞いてみる。
「他の道具はあるの?」
「こね鉢、そば切り包丁、のし棒もふるいもあるけど、板がない。そして、そば粉もない」と父。

とりあえず、そば粉を買うことにして、取り扱っていそうなA-COOPまで行ってみました。
初めて行くお店なので、サービスカウンターで尋ねてみます。
私「そば粉はありますか?」
カウンターの店員「銘柄はなんですか?」
私「?」(さすがは農協購買部、そば粉の銘柄を各種取りそろえているんだ)
私「ちょっと銘柄には詳しくないんで・・・」
店員「いつもは何を吸ってらっしゃいますか?ここにない銘柄は向こうのカウンターにもあります」
と指を指した先には「タバコ」と大きく書かれていた。
(「タバコ」じゃなくて、「そば粉」です。・・・どちらも吸うとむせますが・・・)

それでも、なんとかそば粉を買って、父の元に戻ると、父はパークゴルフ場(トウモロコシ畑?)にいた。
「カップを設置したぞ。コース完成だ」
あたり一面の黒土の端のほうに、カップが埋まっているようでした。
「芝はどうするの?」
「タネを撒こうかと思っとるけど、そのうち雑草も生えるじゃろ。SDGsじゃ」
なるほど自然に優しいパークゴルフ場だ。って「SDGs」を知ってるんかい!

そうだ。気になってたことを聞いてみよう。
私「お父さんは『フィールド・オブ・ドリームス』を観たことある?」
父「なんじゃ、そりゃ?」
私「トウキビ畑を野球場にする映画(ザックリしてる)」
父「知らん」
私「でも、トウキビ畑をやめたの?って聞いたときに、『それを作れば、カレがやって来る』って言ってたじゃん」
父「?」
私「『フィールド・オブ・ドリームス』の有名なセリフだよ」
父「ああ、トウキビを作ったらカラスが来て、全部食い荒らすから、やめたんじゃ」
私「・・・」(「それを作れば、カラスが来る」ってか)
父「やっぱり、カップには棒が立ってなきゃ雰囲気が出ないな。棒も買ってくれるか?」
棒?
棒じゃなくて、ピンだよね・・・。
あと、きっとクラブもないよね・・・。
ボールもないよね・・・。
蕎麦ののし板もないし・・・。

結局、何もないのです。
でも、夢はあります(と、今回もネタがなかったことを誤魔化したつもり・・・なんのこっちゃ)