第106回 ふそくのじたい

さんまが不漁らしい。
遠洋では獲れるらしいが、採算が合わないとのこと。
不漁の原因はいろいろあるらしいが、とにかく今年のさんまは高嶺の花になりそうだ。
不測の事態で、庶民の秋の味覚が遠くなっていく(庶民って誰だ!?)。

不測の事態といえば、この夏(7月中旬ころ)、中年仲間12人で旅行したことを思い出した。
北海道離島巡り第二弾として、天売島・焼尻島を目指した旅である。(第一弾は数年前の奥尻島でした)

この日本海に浮かぶ小さな二つの島へは道北の羽幌町からフェリーで向かう。
まずは羽幌で前泊。
前泊メンバーは7人で、フェリー乗り場近くの民宿に素泊まりした。
素泊まりなので、食事はない。
もちろん酒類等ドリンクは大量調達済みだが、食料は持参していない。
羽幌町内の居酒屋で夕食をとることにした。

小さな街なので、7人で行くには予約が必要だろうと、民宿のオヤジにお勧めの居酒屋を聞き出す。
海鮮居酒屋と普通の居酒屋のどちらがいいか、聞かれたが、
明日から海鮮三昧なので普通の居酒屋で、と全員の意見が一致。
候補の居酒屋を三軒紹介してもらったので、そのうちの一軒に電話をしてみる。
出ない。
木曜日の17時を回ったところなのだが、開店は遅いのだろうか。
別な店に掛けてみる。
こちらも出ない。
あれ?もう一軒に掛けてみる。
こっちも出ない。

民宿のオヤジに聞いてみる。
紹介してもらったお店に電話が繋がらないけど休みじゃないよね?
オヤジ曰く、羽幌の居酒屋は始まりが遅いんで、まだ仕込み中じゃないですか。
仕込み中でも電話には出てほしいが、羽幌時間ならば、しょうがないのかもしれない。

一時間ほど宿で酒を飲みながらウダウダしていたが、つまみもなく酒だけ呑むのは味気ない。
18時を回ったので、そろそろじゃないか、と居酒屋に電話をしてみる。
・・・出ない。
別な店に電話する。
・・・やっぱり出ない。
いやな感じ、もう一軒。
・・・あー、出ない。
まさか、19時始まりとか?

民宿のオヤジは、19時始まりかもしれないですね、羽幌ですから。とシレっと言った。

不安を感じた我々は「羽幌 食堂」で検索してみた。
数件ヒット。
18時より営業という海鮮居酒屋に電話してみた。
出ない。
別な居酒屋も電話に出ない。
こうなったらしょうがない、ラーメン屋に電話した。
・・・出た!
「すみませんね。今日はお休みです」
えっ!せっかく出たのに休みとは。

もしかして羽幌の飲食店は木曜日は休みなのか?
民宿のオヤジに聞いてみた。
オヤジ曰く、木曜日が休みって聞いたことないですね。そもそも夜はここから出られないんで。
そしてお客さんもみんなウチで食事しますから。

あーなるほど。このオヤジはホントは街のことを知らないのかもしれない。
不測の事態だ。

隣の町でもいいんで、食事の出来そうなところを探して欲しいとお願いしたところ、
10分ほどしてから、ちょっと遠いですが焼肉屋があります。と教えてくれた。
しかも営業は21時までとのこと。
そろそろ19時なので、今から行けば大丈夫なはずと、タクシーを2台お願いする。

タクシーで焼肉屋に向かう途中、運転手さんに聞いてみた。
木曜は羽幌の飲食店は休みですか?
運転手さん曰く、いや、いつもやってるよ。
でもね、きのうまで3日間、お祭りだったんだわ。
きっと、みんな呑み疲れたんだわ、ははは。

え、呑みすぎで休み?
年に一度のお祭りにぶち当たるとは、なんと引きが強いのか。。。
ははは、と我々も力なく笑った。

焼肉屋には5分も掛からず到着。基本料金だ。
全然遠くない。歩いてこれる距離じゃん。

民宿のオヤジは地元民じゃないのかもしれない。
や、もしかしてあのオヤジは逃亡犯で、本当の民宿のオヤジは奥の物置に閉じ込められているのかもしれない。
あるいは宇宙人に民宿ごと乗っ取られたのか。。。

などとくだらない想像をしつつ食べた焼肉は、予想に反してとても美味しかった。特に厚切りのレバーが。
海辺の町だからって、けっして侮れないな。
なぜか上から目線で納得しつつ、歩いて民宿まで帰った。

翌日、フェリーターミナルで新たな疑惑が巻き起こった。
フェリーターミナル内の食堂での朝食。
海鮮解禁だ!と自動券売機で「ウニ丼」のボタンを押した我々は「売り切れ」表示で出鼻をくじかれた。
どうやら数日、海が荒れていたのと地元のお祭りとでウニ漁がなかったらしいのだ。

ウニ漁をしなかったのは羽幌町だけだよね?と海に訊いてみるが、帰ってくるのは波だけ。
はたして天売島、焼尻島にウニはあるのか?

不安を胸に高速艇で焼尻島に向かう。
獄門島に向かう金田一耕助の心境もさもあらん。
曇り空から落ちてきた雨なのか、うねる波しぶきなのか、船窓から外の景色が滲んで見える。

いやな気分を振り払おうと、このあとの楽しいイベントを想像してみる。
焼尻島ではまずウニとエビとタコを食べよう。
焼尻産サフォーク種の羊も絶品らしい。
釣りに行こう。
釣った魚をそのまま捌いて、刺身にしたり、焼いたりしてお酒を飲もう。
島美人とお知り合いになるなんてこともあるかもしれない。。。

高速艇は羽幌港を出てから35分ほどで焼尻港に着いた。
そして、上陸した我々に不測の事態が待っていた。。。

次回に続く(今回は、文章も内容も「不足」の事態)。