第40回 オープンソースコミュニティを10年継続しているT氏へのインタビュー

みなさんこんにちは。
今は5月GWの真っ最中、暖かくなりましたね。
このメルマガが出る頃にはGW明けですので、ボーっとしながら社会復帰のリハビリがてら仕事されている方が多いのではないでしょうか(失礼)。

今回は、この5月17日(世界情報社会・電気通信の日)でオープンソースのユーザー会を発足して10年目を迎える、Asteriskユーザー会主催者の高橋隆雄さんにユーザー会でのきっかけや苦労話などこれまでの歩みをインタビューしてみましたので、ご紹介したいと思います。

ちなみに、私の会社も5月17日が設立日でようやく5周年を迎えます。
という訳で、このユーザー会とは何かご縁を感じるのです。

まず、高橋さんが主催しているAsteriskというオープンソースはどんなものかについては、以前のコラム
第23回 電話交換機能やテレビ会議を実現するオープンソース
でも簡単に触れております。

Asteriskは様々なことができるのですが、一言でいうと、オープンソースのSIPサーバー、電話交換機、PBXです。
Asteriskの公式サイトの紹介文では、コミュニケーションアプリケーションを構築するための、フリーでオープンなオープンソースフレームワーク、ということが書かれています。

Asteriskユーザー会のサイトはこちらになります。

今回ご紹介する高橋さんは、日本におけるAsteriskの第一人者で、古くは2005年から関連書籍をいくつも出されています。

Asterisk(TM)でつくるIP電話システム (2005/08/01)

Asterisk活用ガイド (2007/04/19)

AsteriskNOWではじめるIP電話 (2007/10/01)

FreePBXでつくるIP電話システム-FreePBXへの入門 (わりと最近)

ユーザー会の活動の一環として、基本毎月第二木曜日に六本木一丁目で行われるVoIP&Asteriskラウンジ  というおしゃれバーでのただの飲み会や、オープンソースカンファレンス などがあり、高橋さん含めユーザー会の方々が出没する、誰でも参加できるイベントとなっています。

それでは、早速いろいろ伺ってみましょう。

内Q:Asteriskユーザー会を立ち上げる前からAsteriskをご存じだったかと思いますが、注目していた理由や経緯を教えていただけますか?

高橋A:将来的に”ボイスコミュニケーションはIP上のサービスのひとつになる”という予想(期待)をしていました。その中で”SIPサーバ”に注目していたのですが、SIPサーバのほとんどがどちらかというと大規模な用途を想定するもので、オールインワンで簡単に使えるものが少ない中、探し当てたのがAsteriskでした。Asteriskは純粋なSIPサーバではなくPBXなのですが、小規模から大規模まで使えるVoIPのプラットフォームとして注目したのがそもそものきっかけです。

内Q:なぜユーザー会を発足しようと思われたのですか?

高橋A:大抵のオープンソースはすでに先行する人がいて、海外でもユーザー会があって・・・というのがよくある話なのですが、Asteriskに関してはその当時、日本国内では情報がほとんどなかったため自分でやるしかないと思ったわけです。特に電話関係は、国内事情が色々と違い、日本は日本で独自なことをやらなければならない部分も多々あります。そんな訳で、日本国内での情報交換を活発にするという目的で始めました。

内Q:ユーザー会を立ち上げたとき、高橋さんはどのような職業だったのでしょう。

高橋A:その当時からもうすでにフリーのエンジニア/ライターでした。

内Q:ユーザー会を立ち上げた当初から現在まで10年間経過していますが、この10年で、「オープンソースの位置づけの変化」、「Asteriskの位置づけの変化」、「電話業界の変化」など、なにか感じられるものありますか?

高橋A:オープンソースはもう皆さんご承知の通り、さまざまなインフラやアプリケーションで『自然に』使われるようになってきていると思います。もはや、オープンソースであることを意識すらしていないのではないでしょうか。

Asteriskに関しては、他の、特にWeb系と比較すると目立たない分野であるので大々的に取り上げられることは少ないのですが、使用されているケースはかなり増えてきていると感じます。

特に、コールセンター/コンタクトセンターの分野では需要が高くなってきています。
電話業界は今後、ほとんどの部分がIP化されるのでAsteriskの出番はますます増えるのではないでしょうか?

内:たしかに、10年前当時は「オープンソースは商用では使えない」といった話を仕事上のシーンで耳にしましたね。今は全くそういった話題がなくなるどころか、オープンソースをうまく活用してコスト削減できないの?という相談のほうが多くなってきた実感があります。

内Q:コミュニティを運営していて、よかったこと、面白かった出会い、または腹の立ったことなんかはありましたか?

高橋A:他のオープンソースのプロジェクトが経験してきたことが、全て後追いで発生していると言ってもいいかもしれません(笑)。

というのが、電話業界の人、要するにIT系ではない人たちは、OSSに対する理解や知識があまりない事が多いため、そもそものOSSの文化に対して理解がないと言っても過言ではありません。

このため、『タダで』のようなキーワードに過剰に反応してしまうこともままあり、サポートも無料だと思ってしまうケースもありました。

また、何でも安く構築できるかのように思っているケースも。このような誤解を無くすために、今もって苦労しています。Linuxを始めとする、OSS基盤の部分で他のプロジェクトが苦労してきたことを今まさにやっている感じですね。

コード等のコミッターが少ないのはどのプロジェクトでもそうなのですが、Asteriskの場合には特に顕著です。日本国内では知っている範囲の数人しか書いてないというのが現状です。

内:「サポートも無料だと思ってしまうケース」のくだりは、よくわかります。他のオープンソース、例えばウェブ系CMSのオープンソースコミュニティでもやはり、コミュニティの掲示板やメーリングリストに、「初めまして、仕事で受けた案件でXXXで困ってます。月曜日までに解決策を教えて頂けますか?」的な投稿がされるのに対し、「仕事で請け負っている案件のサポートなのだから、対価を払って仕事で出されたらいかがですか」という内容が、時には過激に、時には紳士的に返信されるシーンをよく見ます、よく荒れるパターンですね。

内Q:Asterisk以外で注目している「オープンソースプロダクト」、「オープンソース以外のこと」はございますか?

高橋A:私の著書を見てもらうと、あまり一貫してないように感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、実は自分の中ではそう一貫性がないとは思っていません。

もともと、ハードウェアからコンピュータやシステム、ネットワークに入っているのでPICやArduino、Raspberry Piといったハード寄りの本が多くなっています。当然、ハードウェアを使う上でOSをどうするかというのが避けて通れないわけですから、そこからLinux、Linux使うならサーバといった具合ですね。

OSSで、今、面白そうなのはドローンなのですが、ドローンも使いたい人が多い割に自分でコードを書く人が少ない現状があるようで、一部のプロジェクトでは資金難で潰れたりしているようです。

ドローンの話もAsteriskとは全くかけ離れてて、なぜ?と思われるかもしれませんが、実は私はもともとラジコンヘリを飛ばしていたので、自分の中では自然な話なのです。

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お話しを伺っていると、やはり高橋さんはまぎれもないギークだなと思いました。
オープンソースによっては、ソフトウェア、ミドルウェア、ライブラリなどを無料で利用できるようになり、さらにセンサー等と連動させられる小型のハードウェア、ボードなどが安価に入手できる上に情報もオープンになってきています。

技術と知識だけでなく、好奇心や想像力があれば、そんなにお金をかけなくてもものづくりができる時代になってきましたね。

今回はAsteriskユーザー会に関するインタビューがメインでしたが、いずれIoTというトレンドにも合ったArduinoやRaspberry Piに焦点を当て、インタビューや制作事例を紹介してみたいと思います。